零の旋律 | ナノ

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「で、今度はなんだ」

 朔夜は足を組んでソファーに座っている。榴華はその反対側に腰を下ろす。篝火もその様子を見て朔夜の隣に座る。朔夜の諦めがいいのは単純に榴華にいくら怒鳴っても時間の無駄だと知っているから。

「最近やたら人が殺されているんねん。その犯人捕まえてほしーんよ」
「人殺しって、別にこの街じゃあ普通じゃねぇかよ、犯人放置してもいいだろう」
「けっこー捕まえないと困るんだけの人数が殺されているんよ、夜中に」
「だーかーら」

 此処は罪人の牢獄、人が殺されることは日常的。昨日話しかけた人が今日はいない、そんなことが起きても不思議じゃない場所。
 此処は罪人の牢獄。法など最初から存在していない。

「強いよ」

 榴華がそれだけを口にする。
 力なきものは、力ある者に縋り何かをしなければ生きていけない場所。

「その罪人どもは重犯罪を犯してこの街にきた実力者たちだ」

 榴華の口調が素に戻る。その様子に、朔夜は榴華が言っていることが事実だと知る。
 真面目なことを話す時榴華の口調は素に戻る。
 篝火も興味深そうに榴華に視線を向ける。


「それが此処数日の間に悉く殺されている。別に罪人どもが殺されようが此方も罪人関係はないが、この街に住む以上関係はある」
「……わかったよ」

 朔夜にとって大切なものは街であった。
 だから、朔夜は街を壊すような輩は許さない。それを知っているからこそ榴華は朔夜と篝火に頼みに来た。
 そして今回はただ頼みに来ただけではなかった。

「今回は俺も同行して一緒に探す」
「なんでだ」

 普段、榴華の頼みごとを受けて朔夜と篝火が行動するときは、大抵二人だけだった。榴華は柚霧の元を離れようとはしないし、面倒事はごめんだといって一人逃げていた。
 それが今回に限って一緒に行動するという。
 普段なら片時も離れないような柚霧と別行動もしていた。

「その罪人がかなりの実力者で一人だからだ」
「そうか」

 それ以上朔夜は追及しない。
 現状では大した証拠がないのだろう、だから榴華は深くは語らないそう判断していた。
 朔夜と榴華は榴華が罪人の牢獄に来た当初からの知り合い。
 朔夜と榴華を引き合わせたのはこの牢獄の支配者だった。
 三年の付き合いがある朔夜にとって榴華の言動の大抵は理解しているつもりだった。


「これ以上罪人が殺されまくって街として機能しなくなったら困るからな、いくぞ」

 朔夜が立ち上がったことで、篝火も立ち上がる。

「あー帰りにパン屋よってパン買いたい」
「またか!!」

 朔夜に耳元で叫ばれる篝火だった。

 篝火が美味しいパンを求めて罪人の牢獄を彷徨っているとき柚霧から美味しいパン屋を紹介され、それ以降そこのパン屋のパンを食べるのが篝火の日課であった。
 いつの間にかパン屋の店主とも顔見知りというかお友達状態だ。


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