零の旋律 | ナノ

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「……山雨来らんとして、風、楼に満つ……」

 窓際に立ち、窓を眺める人物――篝火は金髪の髪に緑色のバンダナをつけラフな格好をしている。頬を掌につきながら紫色の瞳は窓の外の喧騒する街を眺めながら呟いた。

「なんだよ、また訳わかんねぇことば 使いやがって。最近また、そんな言葉ばかりじゃねぇか」

 篝火の後から、ソファーに座りながら声をかける人物――朔夜は、白い髪は長く腰付近まである一部だけ赤メッシュが入っている。赤い瞳は怪訝そうに篝火の背中を見ている。

「なんでだろうな……なんか口から出てくるんだよ」
「そうかい。で、何の意味だ?」
「不穏な気配がするってこと」

 何かがこれから起こりそうな気配が周辺に漂っていた。
 何と聞かれれば明確に答える術は持っていない。何の根拠となるものは何一つないのだから。
 けれど、普段とは何かが違う、篝火はそう感じ取っていた。
 そしてそれは次第に確信に近い感覚に近づくこととなる。


「あっ」

 篝火は朔夜の自宅に向かって歩いてくる一人の人物を見つける。

「どうした?」
「もうすぐ来るみたいだ……なんだか予感って外れないな。嫌なほう限定で」

 意味不明な言葉に朔夜は眉間に皺を寄せるが、すぐに篝火の行った意味が理解出来た。
 朔夜の自宅の玄関をインターホンも鳴らさずに、わが家態度で入ってくる足音一つ。
 誰が入ってきたか朔夜は明確に理解した。

「てめぇ!! 勝手に入ってくるんじゃねぇ」

 その人物が姿を表す前に朔夜は怒鳴る。
 かなりの音量に思わず篝火は耳をふさぎたかったが、時すでに遅し。

「えー、つれないなぁ、ケチはいかんよ。海のように広大な心を持たんと」

 そういって現れた人物――榴華。榴華は第一の街、罪人の牢獄にある街の支配者の一人。圧倒的実力で街の罪人たちをねじ伏せている存在。
 その戦闘能力の高さは随一と言ってもいいほど。
 そんな榴華がこの場所に現れる時は必ずと言っていいほど厄介事を持ってくる時。
 しかし篝火と朔夜はよほどのことがない限り榴華の頼みを承諾する。最終的に。
 何故なら篝火の生活費の収入源はこの榴華からの頼みを解決した報酬であるからだ。
 朔夜は何をしているのか、何もしていないのか篝火が榴華の頼みを聞いて収入を得る前も普通に暮らしていた。しかし、篝火はそれを朔夜に問うたことはない。


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