零の旋律 | ナノ

V


 一体これは何だろうと思って今に入ると、テーブル一面に豪華な料理が二人前並んでいた。
 隣にはエプロン姿の朔夜がいる。しかし長い髪は縛っておらず料理をする恰好ではなかった。
 だが、そんな些細なこと今は気にならない。エプロン姿ということは朔夜が料理をしたということ。そしてこの豪華な料理は思わずのどが鳴る。

「おまっ」

 何かを喋ろうとしてもうまく言葉が出てこない。意外すぎる。

「偶には俺だって料理するんだよ」
「たまにレベルじゃないだろ!! 俺より確実に上手だろこれ」
「昔徹底的に教え込まれたからな。冷めないうちに食えよ」
「ふふふ」

 俺は思わず笑ってしまう。朔夜は何だよと怒鳴っているが僅かに照れているのがわかる。
 短気で口が悪くて整理整頓がまともに出来ない奴だけど、悪いやつじゃないのは確かだ。個人的判断しかできないわけだけど。

 ただの不良でもなんでもない、この街のゴロツキとは一味もふた味も違う。十人十色とはよくいったものだ。
 料理を一口口にすると見た目通りの味だった。中でとろけるような味わい、上品な盛り付け、味わい深く何処かの高級料理店を思わせる味に思わず手が止まる。
 此処まで美味しいとは予想外だった。


「まずいか?」

 手を止めたからだろう、不味いのかと顔を顰めながら俺の方を見てくる。

「いや、美味しいよ。ってかうますぎ」
「なら、いいけどよー」
「お前何者だよ」
「そういうお前だって何者だよ、商売往来にない商売ってなんだよ」
 
 お互い何も知らない。他人。そう、これが最期

「あぁ、俺はただの泥棒さ。ヘマをして捕まった馬鹿野郎さ」
「ふーん」

 特に感心がないように朔夜は答える。
 実際感心がないのだろう。なら何故聞いてきたと問いたいところだ。

「お前、これからどうするんだ?」
「さぁ、適当にやっていけば何とかなるんじゃねぇーの」
「馬鹿か」
「まっなんとかなるだろ。無法の法だとしても、なんとかなるさ……ごちそうさま」
「……」

 朔夜は何も言わない。何か考え事をしているような印象を抱く。僅かに目を細めて俺を見ているからだ。

「なんだよ」

 なおも朔夜は何も言わない。普段歯に衣着せぬいい方しかしない奴が黙っていると気持ち悪い。

「おい……」
「お前さぁ、馬鹿だな」
「はぁ!?」

 利口だと思ったことはない、教養なんてたいしてない。けれどお前にそんなことを言われる筋合いはない。


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