零の旋律 | ナノ

第三話:嘗ての自分


 朔夜の目線が俺を見る。後は俺が片付けろってか

「いいよ、殺しても」

 名前を捨てた王様はあっさりという。最初から王様は武器を所持していなかった、――見た目は

「部下をなくしたからってあっさりしすぎじゃねぇの?」

 朔夜が俺の隣にならぶ。

「部下って、私がリーダーだっていつわかった?」

 名前を捨てた王様は苦笑しながら朔夜に問いかける。確かに名前を捨てた王様が自ら部下に命令をしたことはない。ただ勝手に部下が行動していただけ。

「簡単だろ……お前が一番強いからだ」
「……」

 朔夜の言葉を勝手に引き継いで俺は王様に話しかける。
 唖然として口を半開きにしたまま王様は俺を見ている。

「……なんでまた無謀なことしようとしたんだよ」

 案外冷静な朔夜に驚きを俺は隠せない。朔夜は心外そうな顔をして不機嫌度が上がっていく。


「ただ利用しただけさ、私は決して善人なんかじゃあない。榴華に恨みを持つものは操るのが容易かった。皆で榴華に復讐をしようって投げかけるだけでいいんだから」

 ならず者を集めるのは簡単だ。この地では特に。罪人しかいないのだから、此処は罪人の牢獄罪を犯した人が送られる場所。ただ死を待つだけの奈落

「なら、なんで利用しきらねぇ?」
「さぁ、私にはもうなんか全てがどうでもよくなったのかも」
「……いーかげんにしたらどうだ?」

 朔夜の静かな声が、この空間に響く。静かに静かに音を立てて

「何を?」
「てめぇで考えやがれ馬鹿」
「そうだね。まっ答えなんてわかっているけども」
「……」
「でもさぁ此処はそういうところ」

 朔夜が苛立っている原因は簡単だ。朔夜が切れた理由は明確だ。
 死にたいといいながら生きたいといっているからだ。



「榴華には何か恨みは?」
「さぁ、特にはないよ。ってかあると思うの?」

 名前を捨てた王様は逆に質問してくる。
 ふっと俺は笑う。答えなんて簡単だ

「死のうとするのに態々恨む必要はないよな」
「正解」
「なら、帰るか」

 朔夜は岐路につこうとした。あっさりとしすぎている俺と名前捨てた王様は目が点状態だ。

「なんで?」
「榴華のやろーは性格悪いんだよ。だからお前は死ぬことは出来ない」
「どういうこと?」
「死にたいと願うのならば榴華は逆のことをお前に強要するってことだよ」
「……」

 名前を捨てた王様は何も言わない。眉を読もうとしたが、わからなかった。
 朔夜は一人スタスタと歩いて行った。
 朔夜が見えなくなったところで名前を捨ては地面にへたり込んだ。
 そして後ろにいる俺を見上げる。

「だってさ、残念だね。君も死ねないよ」

 笑いかけるその笑みは寂しげだ。

「死ぬ死ぬという者死んだ例がないってのはまさにこのことだな」
「あぁ、それは私も知っている。死にたいといつもいっているやつに限って、本当に自殺する人はいないってことだよね」
「あぁ、だって結局俺たちは自殺しないで生き伸びているんだから」


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