[ 「名前は?」 口にした後に俺は驚く。何故そんな言葉が出てきたのか。 「……名乗る名前はないよ私は名前を捨てた、そしてこれから――」 その先の言葉は聞かなくてもわかった。 捨てたいのだ生きていたくないのだ だから 「なんだよ、それ……とんだ策士だな」 朔夜は意味がわからないのだろう、呆けた顔をしている。 そしてその隣にいる臣下(命名)も呆けた顔をしている。 多分今は名前を捨てた王様と俺の世界なんだろう、二人には理解できない。 「伯牙、琴を破る……」 そう表現するしかなかった。俺には。 使わずにはいられないんだ。 「そうか、だから君はそんな言葉ばかり使うんだね」 名前を捨てた王様も理解したのだろう。 俺と名前を捨てた王様にしか理解できないないように敵対しているはずの朔夜と臣下はしばし呆然とし、一時休戦状況だ。 しかし臣下は本来の目的を思い出したのだろう、槍を片手に朔夜に斬りかかる。 朔夜はぎょっとして後ろに急いで逃げる。 その様子にやっと相手は理解したのだろう、朔夜が接近戦を苦手としていることを。 なばらと臣下は接近戦に持ち込もうと槍を握り全身する。数多に降り注ぐ雷を最低限だけ避ける。 避けきれない場所は避けようとは思わないで受ける。 その方が最終的に被害は少ないと臣下は理解したようだ。 朔夜は先ほどの罪人たちより数段強い臣下に僅かながら焦りの表情が見えている。 しかしポケットにはなおも手を突っこんだままだ。 相変わらず見ている相手の挑発にしかならないような偉そうなポーズ。 態と威嚇しているわけでも挑発しているわけでもなく、ただそれが朔夜の戦闘スタイルなのだなと此処で俺は理解する。まぁ接近戦が苦手で遠距離からしか攻撃しないのなら、それも術式の発動を唱える必要性がないのならばポケットに手を突っこんだままでも充分戦うことは可能だ。 「あぁぁ!! てめぇうざいっ」 朔夜の怒鳴り声が周囲に響く。 「しらねぇよ!! さっさとくたばりやがれ」 朔夜同様臣下も大分口が悪い。いい仲間になれそうだぞ、と心の中で朔夜に告げる。 声に出したら多分雷と槍が同時に俺の元に降ってくる。 「俺はさっさと帰って寝るんだよっ」 大分個人的な理由だ、そもそも朔夜は人に使われるのが嫌いなのだろうな。 「あの世でねな!!」 槍を振り回すが、臣下より朔夜の方が強かった。 朔夜の雷が逃げ場のないほど周囲に降り注ぐ。貫く雷に逃げ場はない。 臣下は無数の雷を受けて地面に倒れる。起き上がってくる気配はない。 [*前] | [次#] TOP |