零の旋律 | ナノ

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 しかし、途中で朔夜に聞きたいことが出来た為口を開く。

「なぁ、そういやなんで会って間もない見ず知らずの俺を使うんだ? 他にも人は沢山いるんじゃねぇの」

 街の支配者であるなら手下が沢山いたって不思議ではない。

「なんで俺とお前だけなんだ?」

 もっと人を仕えば簡単に反乱分子等ねじ伏せることが可能だろうに。
 いつ何時裏切るかも分からない俺を頼る必要性は皆無だ。

「あぁ? んなもん簡単だろ」
「ん?」
「あいつが使える手段なんて限られているんだよ。忘れてねぇか? 此処は悪人が集う地帯だぞ相手に背中なんてそうそうあずけられねぇよ」
「大水に飲み水なしってか?」
「なんだよそれ」
「簡単にいうと沢山人がいても、本当に使える人は少ないってことだよ」
「一々わけわかんねぇ言葉ばかり使ってねぇでわかりやすいのを使えよ」

 そういえば……普段はそこまで俺も使っていなかったな。
 俺の相棒が使っていた言葉たちを忘れたくないのだろうな、心にとどめておきたい。

 あいつがいった言葉を想い出を――

 感傷に浸る俺に朔夜は何も言ってこない。
 ただたんに短気で無神経というわけではないらしい。
 そうしている間にも打倒榴華組織の本拠地に辿り着く。

 此処がそうか――なんとも此処が組織ですよって雰囲気醸し出しすぎ。馬鹿につける薬はない。
 街の外れにある古ぼけた廃墟。解体工事途中だったのだろうか、所々鉄筋がむき出しの状態だ。
 下手に暴れると建物が崩壊するだろうなぁと全体を眺める。
 俺と朔夜の存在に見張りが気づいたのだろう、囲むようにぞろぞろと武装し、顔に悪人ですと描いていそうな罪人がやってくる。ざっと20人近くか。よく此処まで人数を集めたんだなと心の中で称賛しておく。まぁ命日は今日だろう。

 俺は滅多なことがない限り人を殺すつもりはない。俺は泥棒。盗みはやっても命を奪うつもりはない。
 ただ、人を殺すことが怖いだけの臆病者なのかもしれないが、臆病もので結構。

 だが、朔夜は違うだろう。朔夜が怖がるような性格なら最初から榴華がこの場所まで一緒に来させないだろうと判断しているから。
 朔夜はポケットに手を突っ込んだまま黙っている。武装集団を見てもビビる気配はない。むしろポケットに手を突っ込んでいるのが余裕の表れなのか相手を挑発しているのか。

 武装集団の一人が朔夜に襲いかかってくる。鉈を振り回して飛び込んできたが、場数は踏んでいるのだろう。しかし朔夜はポケットから手を出そうともしないし、戦う姿勢になることもしない。
 何か特別なことでもするのだろうか、それともただの役立たずか俺は助けないで眺める。
 すると朔夜の……鉈を振り回している男の頭上から男に向けて突如出現した雷が急降下して男に当たる。
 男はなすすべなく地面に倒れて動かなくなった。辛うじて生きてはいるが、このままほおっておいたらどうなるかはしらない。


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