零の旋律 | ナノ

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「つまり自らの正体を明かさない、ということだな」
「鋭いなぁ自分」
「一部の罪人は名字だけで、自らの身元が判明するから、それを避けているってわけか」
「まぁだから偽名でもええんけどね」

 因みに自分は本名よとどうでもいい個人情報を頂いた。似ても焼いても食えないような野郎だな。

「俺は篝火だ」
「かがりびぃ? 宜しくねん。今日のお礼よん、この街で何かあったら自分に助け求めるとええよん。自分が面倒みてあげるからなぁ」

 やたら笑顔で言われても胡散臭いだけだ。

「自分この街では有名人なもので」
「変人としてか」
「ひどっ自分は別にそんな存在ちゃうよ。自分は偉いんよ、この街支配しているん権力者やで」
「斉東野語だな」
「ほへぇ?」
「信ずることに足りなくてでたらめかことだ」
「そんな難しい言葉使わなくてもええやん。ええやん。それに嘘やなーいよ。嘘や思うならその辺の罪人捕まえてきて聞けばいいんよ」
「……本当なのか」

 こんなふざけたやつが街の支配者なら街も終わりが見えたなと心の中だけ言っておく。
 それに俺がそういった言葉に詳しいのは、一緒にいた相棒が好きで何度も何度も耳にするうちに覚えた言葉だ。俺自身大した教養はない。何せ物心ついたころから泥棒をして生計を立て、日々を凌いできたのだから。学問を学ぶ余裕なんてたいしてない。考えるのは捕まらずにどうやって盗み生きていくか。

 まぁ最終的には捕まったからこの場所にいるわけだが。


「本当ホント。ねぇサクリン」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!! ……ちっ、あぁ本当だよ」
「人はみかけによらないものだな」

 大抵は見かけどおりの奴が多い気がするけど。

「出来ましたよ」

 柚霧が見計らったようなタイミングで、しかし柚霧のことだ偶然タイミングが良かったに過ぎないのだろう。出会って間もないが、柚霧が計算高いタイプにはどう見ても見えない。
 榴華は見た目と態度とは裏腹に計算高いタイプなのだろうが。知っていて知らないふりをして相手から情報を聞き出すそういったことにたけていそうな印象を感じた。

「有難う」

 柚霧は丁寧に一人一人に料理を出していく。出来たての温かさと、香りのよい風味が辺りを包み込み、思わず見入ってしまう。これは見た目通り美味しいそう直感が告げる。
 シチューとそれにそえられたフランスパン。野菜はトマトからコーン、小松菜色とりどり。飲み物にはオレンジジュース。久方ぶりの豪華な食事。喉が鳴る

「頂きましょうか」

 柚霧が全員分を並べ終えたところで榴華の隣に座る。因みに席は俺と朔夜で一つのソファー。テーブルをはさんで榴華と柚霧が座っている。
 俺はとりあえずパンにかぶりつく。

「美味しい」

 素直に感想が漏れる。このパンのうまみは、最近食べたパンとは比べ物にならない。
そのままかじりついていた俺に朔夜は怪訝な顔を向けている。
 何だと朔夜の方を見ると朔夜は一口サイズにパンをちぎってから口に入れて食べている。
 見た目と合わず上品な食べ方だ。
 朔夜と言葉を交わすことよりも、今はこの美味しい料理を口にしていたと、俺は料理のほうに集中する。


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