Y 「榴華。せっかくですから自宅でお茶でもしませんか?」 収集がつかないと思ったのだろう、柚霧が場を纏める。しかし纏め方が微妙だ。素直に解散させればいいのに。集まらせてどうする。 「何か御馳走しますよ」 「是非」 現金だなと思いつつ、此処数日美味しくないものばかり食べていたからたまには美味しいものを食べたくなるのは仕方ない。御馳走されたものが美味しくなかったら、罪人の牢獄だと諦めよう。人間諦めも肝心。 「朔夜さんはどうします?」 「どうせ、榴華のやろーが俺にようでもあるんだろっいくよ」 渋々承諾といったところか、朔夜にはにべものない表情だ。しかし朔夜の態度に怪訝な顔一つしない柚霧はやっぱりこの街では貴重な癒しだ。榴華の目が鋭く柚霧の周りに怪しい輩がやってこないか、目を光らせている処は忘れよう。 あの時の選択を間違えていれば下手したらこの男に目をつけられていたのだろうから。 相手の実力は不明だが、少なくとも今までこの街でやり返してきた輩より強いのは確実だろう。 実力を読ませない態度だが、俺の背後に俺に気づかずにやってきた時点でただ者ではない。最初会った時と判断を改める。 榴華が案内したのは他の建物より僅かに広くそして豪華だった。 柚霧が進めてくれた居間のソファーに座る。柔らかな座り心地、此処で寝たら気持ちいいのだろうな。最近ソファーに座ることなんてなかったから久々の感覚に酔いしれる。 「何か食べたいものはありますか?」 「パン」 柚霧の有難い申し出に即答すると、榴華と朔夜が笑っている。口元に手を当てて必死で笑いを隠そうとしているのに隠し切れていない辺りが腹立たしい。殴ってもいいだろうか。 「わかりました、少々お待ち下さい」 そういって柚霧は台所に消える。 「何も自分、パンを頼まんでもええやん」 「全くだ」 「別に俺に聞かれたんだ、俺が食べたいものを答えようとしても問題ないだろ」 「まぁそうなんけどねぇ。あ、そだ自分名前は?」 「あぁ」 そういえばこの街に来てから誰にも名前を名乗っていないことを思い出す。友達といえる間柄の人物はつくっていないし、つくるつもりもない。関わりあいのない赤の他人。そう思って誰にも名前を言わなかった。いう機会もなかったし、名前を聞かれることもなかった。 「し」 「ちょいまち」 せっかく人が名乗ろうとしているのに邪魔をするやつだ。 「この街では名字はなのらんでえぇよ。大半の人は名前しかなのらん。何故だかわかるん?」 名字は名乗らないで名前だけ名乗る……そういうことか [*前] | [次#] TOP |