T ――後悔はしていない。 こうなることを承知の上で成功するはずのないことをした。 夢華には……悪いことをしたな。せっかく引きとめようとしてくれたのに、感情のまま俺は仕事をした。そして捕まった。それだけ。目を瞑れば視界に映るのは大切だと認められなくて失った相棒の、最期の顔。もうその姿を見ることは叶わない―― 「もう、どうでもいいか」 それにしてもこの大地は何処まで続くのか。 何もない場所で、孤独という恐怖が死を加速させるのか。無常の鬼が身を責むる感覚に苛まれるのか。 たいして手当てがされていない、傷だらけの身体で一歩一歩歩く。 何処か死に場所を求めているのか、それとも心のどこかで生きたいと思っているのか、今の俺には何もわからない。否わかろうとしないし、したくもなかった。 「はぁ?」 どれくらい歩いたころだろうか、誰にもいないのに間抜けな声を発する。 此処は死を待つだけの大地であり腐敗した奈落ではなかったのか。 それとも今目に見るのは蜃気楼か何かなのだろうか。 目をこすってみても頬を抓ってみても、目の前に見える“あれ”は変わらない。 「なんで街があるんだよ」 罪人の牢獄に存在するそれは幻か現実か。 興味本意のままに足が進む―― 「街……だっ」 傷が痛むのを忘れてしまうほど、俺は目の前の風景にくぎ付けになる。 この光景は何なのだろうか。 街があるだけではない。 そこには人がいた。街は廃墟ではなかった。人々がいきかう。所々見てはいけないのだろうか、血生臭い場面も。怒号、笑い声、泣き声、人々の歩く足音。 呆けた顔をした俺に、二人の男が近づいてきた。 「お前新人?」 「?」 わからないで首を傾げると、“新人”だと確信した二人の男はさらに近づいてくる。 これ以上近づいてくると気味が悪いと思い、数歩後ろに下がり、適度な距離を取る。 「お前、この街にきたばかりの罪人だろ?」 あぁ、そういう意味か。一度首を縦に振り頷く。 「俺もここに来たころは唖然としたぜ、何せ死ぬはずの恐怖の大地に捨てられたのに、実は生き伸びた、なんてなぁ。もらいもんか?」 「さぁ、どうなんだろうな」 この場所にいればそれは生きられるということか。 罪を犯し死ぬべき人が生き残る土地――それを被害者が知ったらどんな顔をするのか。 知りようがないことを考えてしまう。 「で、お兄ちゃん。ものは相談なんだが」 その内容によっては俺はそいつらが信頼に当たるかを判断することにする。 だが、要件はろくでもないものだった。 罪人の牢獄で真っ当なことを夢見ることのほうがおかしいのだろう。 まぁ夢みちゃいねぇけど [*前] | [次#] TOP |