零の旋律 | ナノ

V


「オイ、お前は自分の家で寝れよ」
「えー、偶にはいいベッドで眠りに就きたい」
「お前んちだって十分豪華だろうが」
「あそこは……安心して寝られないからね」
「……たくっ」

 観念したのか、泉もベッドの上に倒れこむ。律にはぶつからないように。二人が横になっても、まだ余裕がある。

「まぁ、泉程ではないよ」
「……そっか」
「まぁ、あれだよね。俺だって殺されることは覚悟しているし、油断したら殺されることも知っている。あそこがいかに淀んでいる場所か、なんて俺自身が知っているわけだし。……でも、偶には安心したいんだよ」
「そうだな」

 否定はしない。常に死との境を彷徨い、油断すれば、天平はすぐに生ではなく、死に傾くこの場所だからこそ。
 二人はここにいる。一緒に。

「だから――泉は死なないでね」

 律は起き上がり泉を見る。
 泉の瞳が律を映し出す。青紫色の髪が、赤い眼が幼いころからの親友の顔がよく見えた。

「それは――お互い様だろ」

 お互いがお互い、大切な親友である。
 表面上は主従であったとしても、大切な親友であることには何一つ変わりはない。

「そうだね」

 幾人を殺して血に汚れようとも、真っ当であろうとする感覚がくるってしまっていても
 この親友だけは裏切らない。
 相手が求めるのならば、例え、それがなんであろうと。

 敵がいるなら誰だろうと
 刃をふるい鮮血に染めよう


「さて、寝ようか」
「あ……あ」
「大丈夫、誰かやってきたら、俺が皆殺してあげるから、今晩はゆっくりお休み。泉」

 律は隣に横になる。
 そう、まだ凶手がやってくるなら、自らの手で殺す。
 律は、そのために今はここにいる。
 普段寝られないのなら、せめて自分がこの場にいる時くらい、眠ってほしい。
 唯一の家族である、郁と一緒に過ごす時間を増やしてほしい。
 いつも、郁が起きている時間に泉は寝ていて、泉が起きている時間に郁が寝ている、なんてそんなこと――悲しすぎるから


 また、明日会おう。


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