U 「だろうな」 「わかっていて、聞くのもあれだけどね。今日はもう静かな夜だよ。眠れば?」 闇は何かをするのに丁度いい。 例えば――暗殺とか。 だから、泉は眠らない。自らの命を守るために。 「俺が、夜寝られないのを知っているだろう?」 ふっと、自嘲めいて泉は笑う。 律はその表情に片眼を細めた。 「たまには、陽にも当たった方がいいよ。健康を壊すし」 「なら、どうやって俺を眠らせる?」 「睡眠薬でも飲んでもらいたいところだけど、効かないっていうのが痛いよなぁ……子守唄でも歌うか?」 「冗談じゃない、律の歌声を聴いて寝られたら、やだ」 純粋な否定に、律は思わず笑う。 「ねーむれーこよーいよー」 そして、棒読みで歌い始める。 「やめろって、全く」 「だって楽しいじゃないか。……静かな夜だしな」 「……本当に静かな夜だな」 まるで、世界が止まってしまったかのように 物音ひとつしない、静かな空間にたたずむ二人だけの世界。 「とりあえず、偶には寝ようよ、泉」 律が再び声をかける。泉はいつの間にか夜寝られない体質になってしまった。 その原因を律は知っている。 毎夜のように現れる懲りない凶手たち。 白銀の一族から送り込まれる残忍な暗殺者。 安心して眠っていたら、この命はすでにここにはない。 けれど、今日の分はもう片付けた。今日はもう凶手は来ないだろう。そう信じて。 「だか……」 再び否定しようとする、泉は最後まで言葉を口に出来なかった。 それが、何を意味するのか、それの行動は一体何だったか、本人たち以外には知るよしもない。 「さ、大丈夫だから寝よう」 律は泉の手を引いて、ベッドまで連れていく。 そして律自身は、勢いよくベッドに倒れこんだ。元々夜には強いが、夜になれば寝るし、朝には起きる生活をしている律にとって、深夜には睡魔がやってくるのも当然のこと。 「偶には一緒に寝よう」 このベッドは、一般に市販されているベッドよりも広さと豪華さを誇っている。 それも、当然。 四大貴族玖城家当主の寝室なのだから [*前] | [次#] TOP |