零の旋律 | ナノ

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 深淵の底 奈落の果てにいたとしても
 そこは絶望だけではない
 枷に繋がれ牢獄に入れられようとも
 希望を望みはしない
 光は求めない
 けれど、絶望に身を堕ちたりはしない


 何故なら
 ただ一人、この世界で唯一の親友がいるから――



 例え裏切られようとも
 例え殺されようとも



 辺りが闇に包まれ、人々の喧騒は静まりかえり月明かりが地上を照らす時
 漆黒に身をまといし者は、空を眺める。月光の光を浴びながらも、その姿は黒く、深い闇を感じさせる。
 何ものをも拒絶するような、闇に絡まれて。

「……」

 自室のベランダから、その者はただじっと月を眺めている。
 髪から、瞳、服までを黒に染め。ただその透き通るような白い肌だけが闇の中で輝く。
 その姿は神秘的なものを醸し出し、ここが胡蝶之夢かと惑わせる。


 そこに一つの影が訪れる。
 漆黒に身をまといし者は、その存在に気がつきながらも、気付かないように月を眺め続ける。
 その者は武器を構え、殺そうと近づく。
 しかし、返り討ちにあい逆に殺される。ベランダにまで届くことはなかった凶手は部屋の中で黒い絨毯を赤く染める。
 鮮血な赤は時が流れるにつれ、黒ずんだ赤へと変貌していく。

 さらに、もうひとつの影が現れる。
 その影は、部屋の中で倒れている者と、ベランダで月を眺めている者を交互に眺める。
 そして、口を開いた。

「殺したんなら後片付けくらいしとけよ」
「……他にも来るかもしれないだろ?」
「来ないよ。泉」

 漆黒をまといし者――泉に、その影――律は手に持っている鎌を見せる。
 ふき取られていないその鎌には血がこびりついていた。
 まだ十歳を過ぎたころだろう、幼さの残る顔にその鎌と血は酷く不釣り合いだ。


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