W 「何だよ。あいつまだ戦意があるのか」 榴華は息を整える。まだ向かって来るのなら戦うだけ。 「ボロボロの身体でそこまで、なんで」 「わかるだろ? お前と柚霧と同じだよ。大切だからこそ諦めることも断念することも出来ない、だからといって現実をみることも出来ない」 大嫌いだとしても、殺したい仲ではない――はずなのに。 「榴華、千朱を頼む」 千朱を榴華に預け、朔夜は水渚の元へ歩み寄る。今の水渚なら自分の力でもどうとでもすることが出来る。 これ以上水渚の心の涙を見ていたくない。狂ったように笑いながら、水渚は一心不乱に、倒れても傷ついても、痛みで気を失いそうでも、前に進む。 「水渚。もう止めろっ。俺たちがっ、千朱が目覚める方法を模索するからっ、千朱が助かる方法を考えるから、だからお前はもう何も考えるな」 水渚の両肩を手で掴み、必死に懇願する。 「俺が千朱が目覚める方法を何年立とうと何十年立とうと探し続けるから、だからお前は何もしなくていい。なぁ水渚、これ以上苦しみ続けないでくれ」 もう、みていられない。これ以上水渚を見ていられない。 「僕のせいだ、僕のせいだよ。僕が支配者だったから千朱ちゃんは――」 「なら俺だって俺のせいだ。俺が何も出来ないから無力だったから俺は守られるだけだったから、お前一人のせいなんかじゃないんだから」 その場にいた誰もが千朱を救うことが出来なかった。 水渚が元に戻ると信じて他の事を恐れていたから、此処まで発展してしまった。 一概に誰のせいなんて言えない。 「水渚!! お前は苦しまないでくれ」 千朱の事を忘れるのが無理でずっと苦しみ続けて心が崩壊してもなおもただ一心に思い続けるのなら、その負担を責めて軽くしたい。 「俺のお願い聞いてくれ……」 涙ながらに必死に叫び続ける。 「朔……御免」 辛うじて保っていた意識を最後に手放し。朔夜にもたれかかるように倒れる。それを朔夜は必死に受け止める。 御免の言葉が脳内に幾度となく再生される。 「……少しは水渚も落ち着いただろうの」 雛罌粟が水渚の怪我部分に結界を作り上げていく。止血の応急処置だ。軽く触ってみただけで骨が何本も折れているのがわかる。当分病院から抜け出すことは出来ないだろう。 「水渚……なんで、こんなことになっちまったんだよ」 何処からが原因だ、水渚が支配者だったことか、水渚と千朱が出会ったことか、栞が崩落の街を教えたことか、自分が戦うだけの力がなかったことか、策略に気がつけなかったことか、可能性はありすぎる――そしてそれらが小さな可能性として残ったまま、時計の針は進んだ。 「でも、俺は水渚や栞、俺のために千朱が目覚める為の方法を探すよ。何年立っても」 拳を額に当て、深く決意する。 [*前] | [次#] TOP |