V 「沫鷹」 水渚の周辺を浮遊していた沫は集まりだし、複数の巨大な沫へ変貌する。 水渚は手を上に上げる、人差し指は空を指すように―― 「僕の邪魔は何人たりともさせない」 「……こりゃあ、ちょっとまずいな」 榴華は沫の数と巨大さに、無数の沫が空を埋め尽くそうとしている。否、この牢獄に空はない。 これだけの攻撃を受ければ街も自分もただでは済まない。 ――柚 柚霧の元へ再び戻るまでは死ねない。 榴華の瞳が翡翠から紫へ変貌する、それに合わせ周囲一体の紫電が色身を強める。 「殺せっ!!」 水渚の一言で沫は宙から落下する――重力も伴いそれは加速していく。 「俺は死ぬつもりはない」 紫電の光が周辺一体を覆うほど眩く輝き――一面を光で埋める。 目を見開いて入れないほどの眩さが、光が紫が交互に街全てを覆い焼き尽くすのではと錯覚するほど。色は白と紫の二色に塗り替えられる。 「なっ――!?」 紫電の光が沫鷹を全て焼き尽くし。水渚へ向かう――。 紫電の光は水渚を包み込み、やがて光を失い色の世界に戻る。 水渚は地面に倒れ伏す節々が酷く痛む。 榴華は肩で息をしながら、水渚が倒れているのを確認する。 「お、お前……」 朔夜にとって目の前の現状が信じられなかった。 ――水渚が負けた、だと 「どうだ、強いだろ?」 「あぁ、強い」 遠目からでも水渚が生きているのがわかる。水渚が必死に身体を動かそうとしているからだ、その度に痛みからか悲鳴が僅かに漏れる。 「足掻くな、水渚。もうその身体では戦えぬだろう?」 雛罌粟が近づく。応急処置をするためだ、雛罌粟が手を伸ばしたのを水渚は振り払う。 「つっ――」 振り払うだけで全身が痛む。思わず声に漏れる。 「止めるのだ、水渚」 「いやだっ、僕は千朱ちゃんを殺す、殺すんだっそうしないと千朱はいつまでも目覚めない!!」 立とうとして痛みに膝をつく。それでも必死に起き上がろうとする。 「僕を止めるな、私の邪魔をするな。千朱ちゃんは僕のせいでああなった。なら僕が殺して上げるだけだ、何日待ってもどれだけ待っても千朱ちゃんは僕の前に姿を現さないっ」 だったら、いっそのこと殺してしまった方が楽になる。 苦しまなくて済む――水渚も千朱も。 生きていたことを忘れて、安らかに。 嫌われていたことを忘れ、安寧に。 ――僕は千朱の事を忘れないから。君ほど大嫌いな人はいなかったから。 「それにっ僕たちは大嫌いなんだ、止めを刺すには絶好のチャンスじゃないかっ、あははははは、あはははははは」 立ちあがる。膝が震える。痛み等知らない。 笑う笑う。笑う。戦意が尽きない限り戦い続ける――水渚は両手に新たな沫が出現する。 [*前] | [次#] TOP |