零の旋律 | ナノ

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「何が何だかわからないが。あれが水渚でいいのか?」
「あ、あぁだがどうして此処に」
 ――また何も守れない。
「柚が恩返ししてこいってさ、だから手伝う」

 榴華の周辺に紫電が現れる。最初出会った時にみた力。
 榴華の紫電は罪人達を寄せ付けることなく一瞬で倒した。
 朔夜はその力の片鱗を見ていた――。けれど水渚の実力を知っている。この男が勝てるとは到底予想していない。関わるだけ怪我をする。

「関わるなよ。お前は柚と一緒に暮らすんだろ?」

 誰かの笑顔を奪うのなら――

「その柚が、俺が何もしないと悲しむんだ。柚に悲しい想いはさせたくない」

 だからこそ、柚の笑顔を守るために榴華は禍根の渦に飛び込む。

「……有難う」

 何処かで誰かを助けたことが連鎖となり繋がっていくのならそれもいいのかもしれない。
 この罪人の牢獄で小さな芽が芽吹くのならば。

「礼を言われる筋合いはない」

 榴華の紫電が水渚の元へ落雷する――が水渚は泡を頭上に移動させ防御する。

「……あぁ、わかったよ千朱ちゃん。君が生きたいと望まないのなら僕が今此処で殺して上げる」

 元々殺す仲だったのなら、もう充分だ――苦しまないために。
 生き伸びる事を望んだ、願った。けれどそれが手前勝手な都合ならもういい。
 水渚は前に飛び出す。榴華はそれを交わし紫電を纏った蹴りで水渚を蹴ろうとするが、水渚は回避し小さな沫を榴華にあてがう。榴華は紫電で全てを焼き散る。
 沫は徐々に水渚の周りから個数を減らす。

「邪魔だ邪魔だよ! どけっ僕は千朱ちゃんを殺す!!」

 水渚の形相に榴華は怯まない。榴華はその想いを真摯に受け止める。
 ああなっていたのは自分かもしれないのだ、柚霧と出会うことがなく、死んだと知らされれば破壊の限りを尽くしたかもしれない。

「断るさ、お前がいくらそいつを殺したかったとしても俺はこいつらに恩がある」

 だからこそ、自分たちに声をかけてくれた人たちの願いを見殺しにするわけにはいかない。
 榴華は水渚へ間合いを詰め、拳を固め殴るが、水渚はそれを両手で受け止める。紫電を纏っている攻撃を直に受ければ、しびれる。電撃が迸るが水渚は食いしばり沫を榴華へ向ける――自分は避けない。精一杯の力で榴華を捕える。

「なっ」

 力任せに水渚を振りほどき後方へ下がるが少し遅く、榴華の肌に沫の跡が飛散する。
 水渚は自らのダメージも顧みず、榴華を掴んでいた。その手は紫電の名残か僅かに紫色が残る。

「はぁはぁ」

 沫の衝撃で被っていた帽子は吹っ飛ぶ。

「千朱ちゃん待っていてね、邪魔な奴を片付けたら僕が殺して上げるから」

 明確な殺意を持って水渚は榴華と相対する。

「……強いな、水渚ってのは」

 榴華は第一の街支配者の実力が伊達ではないことを再認識する。


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