T 「さて、我はどうするか」 水渚を止めることは出来ない。罪人達を結界の中に閉じ込めた処で一時しのぎももう出来ないと痛感した。 ならば――どうするか。 「ぐああああっ」 「ごはがおあう」 「ああああがはが」 悲鳴とも怒声ともつかない声が不吉なハーモニーを描いていく。不協和音が奏でる音に、事態は悪化していく一方。 ――もどかしい、もどかしい、もどかしい。無力な自分がもどかしい 朔夜はその様子を眺めながらしっかりと千朱を抱き寄せる。 ぬくもりは伝わって来るのに、千朱は目を覚まさない。死んでいるのかのように――引き攣った笑いと、涙が千朱をみていると知らず知らずのうちに零れてくる。 「あぁどいつもこいつも、煩いったらないよ」 水渚の沫は速度を増していく――罪人達は圧倒的な支配者の実力に尻込みをする。それが命取りとなり、沫は逃げることも叶わないように四方八方を覆い尽くす。 「死にたいんだったら僕が全員殺してやる」 ひときわ強大な沫がこの場に集まった罪人達全員を殺そうと牙をむき――爆発する。 けれど罪人達は生きていた。 四角に囲まれた結界の中で生きていた。誰が結界を作ったか明明白白。雛罌粟だ。 雛罌粟は罪人の牢獄の罪人の中で最も結界術にたけた存在。 結界を作り罪人達を守ることは容易い。 「水渚、少しはお主落ち着け」 言葉が届かないと知っても言葉で会話をする他ない。 「ウルサイ、うるさい、どいつもこいつも。僕はねぇ僕はねぇ!!」 水渚の右手を後ろへ振り。その勢いを利用して前へ振りあげる。その動きに合わせて無数の沫は雛罌粟に向かっていく。雛罌粟は自身の周りに結界を貼り、全てを相殺する。 「僕は!!」 水渚の沫は巨大化する――雛罌粟は急いで結界の術式を唱える。 水渚の沫が攻撃するのと同時に雛罌粟は結界を張る――。 人を守るための即席の結界では建物までを結界で包み込むことは出来ず、一瞬にして半径50メートル以内の建物が崩壊した。 瓦礫が降って来るのから朔夜は必死に千朱を守ろうとする。その姿が偶々水渚の目に映る。 「千朱ちゃん。そっか……そうだよね千朱ちゃんは」 一歩一歩朔夜達に近づく。覚束ない足取りは今にも倒れてしまいそうだが、それでも千朱に向かって一心不乱に――。 「やばいっ」 雛罌粟が動こうとする前に、雛罌粟の腕を掴む手があった。 「なっ」 「どいていろ」 その人物は水渚の元へ跳躍し――背後から蹴りを食らわせる。 水渚は咄嗟の事に対処出来ずに壊れた瓦礫の中に激突する。 額からは血が流れ、服はあちらこちらが破けた。 「何……」 その人物は朔夜と千朱を庇うように前に立つ。 「榴華!?」 榴華の登場に朔夜は唖然とする。何故此処に――榴華は第二の街へいたはずじゃ、様々な想いが一気に溢れてくる。 [*前] | [次#] TOP |