第四話:泣き叫んだ心 +++ 千朱が横たわる場所で、水渚はただ呆然と千朱の顔を眺めていた。 時が流れるのも忘れ、心に深い傷をおったまま。ただ千朱が目覚めるのをひたすら待つ。待つ事に恐怖を覚え、千朱を忘れたいと心が生み出すのを恐れ。 「水渚、ずっと此処にいたら身体を壊しちゃうよ」 栞が優しく言葉をかけるも耳に入らない。 「水渚、少し休まないと、やせ細ったんじゃない?」 碌に何も食べていないのだろう、水渚の姿は日に日にやつれていく。 「うっさいなぁ」 耳触り。何もかもが雑音にしか聞こえない。 「僕に構わないでよ。千朱ちゃんを殺すのは僕なんだ。だからこんなところで千朱ちゃんが死ぬことは許さない」 いくら千朱に言葉をかけても千朱から返答はない。神経が深く傷つけられている為昏睡状態から脱しないのだろう、それが銀髪の見立てだった。 何を話しかけても今の水渚には通じない。 「……我が思っていたよりも重体じゃの。此処にいても時間を浪費するだけだ、行くぞ」 水渚の危うさを認識し、雛罌粟はその場を後にした。これ以上此処にいても出来ることはない。 千朱を目覚めさせることが出来ないのだから。 「……無力な自分が歯がゆいよ」 「お主まで気に病むな、お主まで気に病んだところで解決策は何も浮かばぬよ」 朔夜の心境も日に日に落ち込んでいることを痛切しながら雛罌粟は朔夜に言葉をかける。 想いの連鎖が続くのなら――何れ崩壊する。 見立ては外れた。人々の心はそれほどまでに蝕まれていた事に誰も気がつけなかった。 水渚の自宅に一時戻り、再び出た時、前触れのように静けさが周辺一体を包み込み――その数時間後、爆発を迎える。 罪人達が雛罌粟たちの制止も聞かず我先と動きだした。支配者になるため、罪人を殺すため、自分の都合のいいようにするため、利己的な思考が波打つように広がり混沌へ陥れる。 「ちっ此処まで混乱が起こってしまえば我ではどうすることも出来ぬっ」 扇子を広げ雛罌粟は事態の沈下へ向かう。その頃栞はいなかった。第三の街も長時間外す事が出来ないために一旦戻ったのだ。朔夜と雛罌粟で何とかしようとするが何せ数が多かった。 建物が音を立て吹き飛び、沫と共に水渚が現れる。 無意識のうちでも、怒りの中でも加減したのか、千朱の周りは一切傷ついていなかった。 「うっさいなぁー! もう、君たち何がしたいわけ!?」 怒りに満ちている。虚ろな瞳の中で確かに怒りが煮えたぎっている。 音が酷く耳触りだった。音が凄く鮮明に伝わってくる。 「どいつもこいつも下らないことに拘りやがって。そんなに拘るなら僕が全員殺してやる」 水渚の周辺に一気に沫が錯乱する―― 「朔夜。お主千朱を守れ」 「あっでも……」 「もたもたするな、お主と千朱が傍にいればいくら水渚とて攻撃することはなかろう」 「わかった」 守れなかったのなら、同じことを繰り返さないために守るだけ。 [*前] | [次#] TOP |