V 雛罌粟の元へ戻りそのことを報告すると雛罌粟も予め予想していて、そうかと言っただけだ。 もとより可能性が低いからこそ一時間という時間でしか探させなかった。 「朔夜の方も少しずつ結界に閉じ込めているらしいな。それを繰り返せば少しは、死傷は減るだろうが、そんなものただの応急処置にしかすぎぬ。お主のしたことを含めてな。根本的な解決には何一ついたらぬ」 「……うん」 その後朔夜が一時雛罌粟の元へ戻ってきた時には三時間が経過していた。もとより体力のない朔夜には疲労の色が見えていたが休もうとは一言も言わない。 水渚がいるだろう千朱の元へ雛罌粟たちは向かう。 +++ 一方その頃第二の街を散策していた榴華と柚霧は噴水の前で立ち話をしていた。 「榴華、一つ私から提案があるんだけど」 「何? 俺は柚の頼みなら何でも聞くが」 「雛罌粟さんたちのお手伝いをしてあげて」 「――だが、柚」 それは暫の間柚霧と離れることを意味する。柚霧が何よりも誰よりも大切な存在である榴華にとって、彼らのごたごたの渦に飛び込むなら柚霧を連れていくことは出来ない。危険な目に合わせることは出来ないからだ。 「私は大丈夫。蘭凛さんたちの所に暫く滞在するから。榴華の力は私が良く知っている。榴華なら力になって上げられると思うの。私には力がないけれど、榴華なら手助け、出来るよね?」 無垢な笑顔で柚霧は榴華を見上げる。 「それでも俺は柚から離れたいとは思わない。もう二度とあんな思いはしたくない」 「私は大丈夫だよ。心配しなくても。私たちは雛罌粟さんや栞さん、朔夜さんたちに助けられたようなもの。恩を仇で返しちゃ駄目だと思うんだよね。皆に助けられなければ私たちは再会することも出来ず、ただ野たれ死んでいたのだから。困っているなら手助けくらい、しなきゃね?」 「……あぁ、そうだな」 柚霧の優しさを榴華は知っている。ならば柚霧の願いを、ひいては自分たちを助けてくれた皆に少しの恩返しをしようと決めた。 榴華自身、自分の戦闘能力に自信はある。邪魔ものを蹴散らすくらいなら役に立てるはずだ、と。 「一応蘭凛さんたちに報告してからにしましょ。勝手に行動して迷惑をかけたらあれだしね」 「あぁ、そうだな」 二人は手を取り合い歩き出す。一歩一歩確かめるように――生きていることを。 蘭凛は願ってもないことだ、と二つ返事で了承した。そして榴華が出かけている間は柚霧を守ることも約束した。 元々第二の街は罪人の牢獄の中で断トツの安全さを誇っている。余程の事がない限りは問題ない。 榴華はその言葉を信じ、柚霧の言葉を信じ、第一の街へ向かう。 第一の街はこの間訪れた時より静かだった。 あちらこちらが崩壊しているのは変わらないが、血の匂いが少ない気がした。 榴華に殺意を見せて襲ってくる輩もいない。 たった数日であそこまで変るものかと榴華は感心する。雛罌粟の力か、それとも朔夜の努力か。 けれど榴華は直感する、その程度のことでは根本的な問題は何一つ解決していないことに。 「俺は柚さえ生きていてくれればそれでいい。なら、柚を生かしてくれた人の手助けをするだけだ」 榴華は瓦礫の上を歩く。油断すれば足元を掬われてもおかしくない程に道路は歪。 [*前] | [次#] TOP |