零の旋律 | ナノ

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「やっぱり最果ての街の罪人は碌なのがいないよなぁ。最果ての街支配者は無関心だし、他の街よりも最果ての街が優れていると思う馬鹿に頼るのも癪だ」

 もし、支配者の中で街の中で優劣をつけるのならば第二の街こそが最も優れている、と栞は確信している。
 第二の街は何も軽犯罪者だけが滞在しているわけではない。殺人犯もいる。
 それらを全て第二の街は雛罌粟の力で抑えているのだ、普通の街と変らないような状況までに導いたのはひとえに雛罌粟の努力と実力のたまものに他ならない。

「けど、第二の街の罪人が第一の街支配者になりたいとは思えないしなぁ」

 栞は頭を左右に揺らし考えるがいい案は浮かばない。最善なのはやはり朔夜が支配者になること。

「後四十分か。あんまり時間をかけてもいられないし、一塁の望みをかけて第二の街へいくか」

 再び栞はその場から消える。
 雛罌粟が栞に支配者になりうる相手を探してくるように命じたのもこの力があるからこそ、だった。
 栞の高い移動能力があるからこそ、離れた街へも一時間の時間内で散策出来る。
 第二の街は何時来ても変わることのない場所。
 そこだけ流れる時が止まったのかのように穏やかな空間だった。
 最も毎日が平和ではない、人の感情を制御することは出来ないのだからちょっとしたいさかいや、恨みから犯罪に発展することはある。
 それは何処にいようが変らない。

「……え、恋人?」

 そこで栞は不思議な光景を目の当たりにする。初々しい恋人同士のように手をつなぎ合って笑いあう二人の若い男女がいたからだ。
 罪人の牢獄で、いくら第二の街だからといって恋仲に発展することは珍しい。
 何せ恋仲になったところで、此処は罪人の牢獄。

「君たち恋人同士?」

 物珍しさから栞は二人に声をかける。

「いいえ、違いますよ」

 まずは少女の方が否定する。

「俺たちは恋人ではないさ」

 そして青年の方も否定する。二人はお互いみあって笑いあう。何処からどう見ても恋人同士の雰囲気に、ある二人を嫌でも想起させる。

「ふーん、そうなんだ。仲いいねって君、そっかあの時倒れていた子だね」

 栞は恋人のような関係に目を奪われ気がつかなかったが、数日前に自分が助けた少女だと今さらながら気がつく。

「あ、私を助けて下さった方ですか? その説はどうも有難うございます」
「お礼を言われるような事は何もしていないよ」

 少女の姿を栞はみていたが逆はない。何せ目覚める前に雛罌粟に預けてきたのだから。

「栞ってお前のことか。柚を助けてくれて有難う」

 青年――榴華も助けてくれた人物の名前を思い出しお礼を言う。
 栞が助けてくれなければ今頃柚霧は砂の毒にやられ絶命していた。

「いいえ、どう致しまして。雛罌粟の計らいで第二の街へ住むことになったのかな?」
「あぁ、雛罌粟には色々世話になっている」
「ふーん、良かったじゃん。他の街に住むよりずっといいよ。お勧め。じゃ、それじゃあね」
「あぁ」
「それでは」

 栞にはやるべきことがある。二人に構っている時間はない。
 その後雛罌粟に指定された時間目一杯使ったが、目ぼしい人物は浮かんでこなかった。



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