第三話:縁が結ぶもの +++ 栞は最果ての街にいた。最初に最果ての街へ足を運んだのだ、第三の街へよる必要はない。あそこに最適な支配者はいないからだ。 何せ支配者を自分が殺してしまったのだから。嘗て朔夜が誘拐された時に。 「うーん、最果ての街って荒れ狂っているから、属性的にはそこそこ同じなんだけどやっぱりそれでも支配者って程適任はいないかなぁ」 「オイ、お兄ちゃんよ」 声を掛けられる。後方四メートル程度からだ。栞は気がつかない振りをしてやり過ごそうとも考えたが、向うから声をかけられれば別だ、振り向く。 二人の青年がそこに立っていた。顔立ちは似ている為兄弟だろう。一人はフランベルジュを、もう一人はチャクラムを持って、狂気の笑みを浮かべている。 絶好の鴨だと思われたのだろう、栞は苛立たしげに二人を交互に見比べる。 「何? 此方と忙しいんだけど」 水渚の家にいた時とは違う、最果ての街では油断などしていない。何時でも拳銃を取り出し戦えるようにしている。 「俺たち、殺しが好きなわけ、だから死んで欲しいわけ、わかる?」 簡単な言葉で説明されるそれに、栞は拳銃を素早く抜き、照準を弟と思しき方へ向ける。 「断るよ。第一なんで俺がそんなくだらない事に巻き込まれなきゃいけないの」 「お前、あれだろ? 第三の街支配者」 支配者と知ってなおも襲いかかる罪人に栞はため息をついた。否、支配者だからこそ襲いかかって来る者もある。 その支配者を殺し自分が支配者になるために、最果ての街は下剋上が最も多い場所。 支配者となったものは常に自分が絶対的有利にいる為の力が必要。 力がないとわかれば罪人達は牙をむいて襲いかかる。 「あぁもう、嫌になるなぁ面倒だ」 栞は拳銃をしまう。下手に時間をかけていられない。 「第三の街支配者ってわかって襲いかかって来るんだから腕の一二本は代償として覚悟しなよ」 栞の手には拳銃の代わりに真っ黒な――光を一切灯さない短剣が握られていた。 「……は、じょうとー」 弟の方は楽しそうに笑う、がそこで邪魔が入る。 「おいおい、俺にもやらせてくれよー」 大柄な二十代中ごろ、筋肉質な体形が鍛え上げたモノだと一目でわかる。 「……ホーさん」 弟はあからさまに嫌悪しながら、一歩下がり道を譲る。 「うわっほそっこいなぁお前。そんなんで本当に第三の街支配者なのかよ」 「欲しい輩にはくれてやりたいところだけど、君には欲しいと言われてもやらないよ」 欲しい人には無条件で上げるつもりだった、けれど相手は選ぶ。誰でも構わないわけではない。 ホーさんと呼ばれた人物は身の丈程ある斧を振りかざし栞へ向かっていくが、栞は冷静に短剣を投げた。短剣は相手に突き刺さることなく地面に突き刺さる。 非道な笑いを浮かべるが、栞にとっては無意味だった。 次の瞬間ホーさんの斧を持っている右腕の方が鋭利な刃物で切断されたように地面に落下する。肘よりしたが一瞬にして持っていかれた。 痛みより先に事実が追いつかない。事実を理解したところで鋭い痛みが襲う。 「うあぁがおあおぁなんだぁああ」 叫んだ所で血が止まらない。もう勝敗は決した。 「止血をすれば腕一本で済むよ。第三の街支配者に手を出した代償だ、その程度で済んだだけで光栄と思うんだね。君たちもやる――?」 ホーさんに道を譲ったということは、二人はホーさんと比べ弱いということ。圧倒的実力の差を見せつけた現状で襲いかかって来るとは思えなかった。 もし、実力差を認知しないでやってくるなら相手をするまで――しかし二人は双方顔を見合わせた後頷きあってその場を静かに退散した。 栞は追いかけることはしない。ホーさんに最後一瞥するだけ。 [*前] | [次#] TOP |