零の旋律 | ナノ

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 次に栞は朔夜の後方に雛罌粟がいることを認識する。

「雛罌粟も一体どうしたの?」
「我が暫くの間代理を務めることにした」
「朔が頼みに言ったんだね」
「あぁ、そういうことじゃ」
「有難う雛罌粟。助かる。代理ってことは水渚を立てたままってことかな?」
「流石に我とて第一の街と第二の街を両立するのは少々きつい」
「……ごめんね」
「お主が謝ることではない。見当違いな謝りをする必要は何処にもないぞ」

 雛罌粟は慰めるように、栞に優しく言葉をかける。

「有難う。本当なんか雛罌粟って皆のお母さんって感じだよね」

 この罪人の牢獄で唯一といっていいほど秩序を重んじる存在に、栞と朔夜は安心していた。頼れる存在として尊敬もまたしていた。

「我はお主らの母親ではない、全く。さて我は仕事をするかの。まずは……朔夜、少し仕事を頼む」
「あぁ、なんだ?」
「我が表立って動くのはまずいんでの、朔夜ならば顔が効く。これを持っていけ」

 雛罌粟は水渚の部屋にあったノートから紙を数枚破り、ペンで文字を描いていく。即席で作った簡易結界術だ。

「雷の術しか得意ではないお主でも大丈夫だろう。簡易だが、相手の殺し合いを止めるために閉じ込める程度には役に立つ」

 つまり――不要な争いをしているものをその結界で閉じ込めろ、というものだった。

「あぁ、わかった」

 紙を握る右腕が強くなる。

「一通り殺し合いを収めた頃合いに戻って来るがいい」
「有難う」

 朔夜は一目散に外に出て行く。やることは多い、一分一秒たりとも無駄には出来ない。

「俺は何をすればいいかな? 一応昨日であらかた罪人は片付けたけど、流石に皆殺しにするわけにはいかないからね」
「お主は第三の街の二の舞を作りたいのか?」
「ははは、流石にそれは出来ないな」
「されては我とて困る。……お主はそうだな他の街から適任者を少し探してきてほしい」
「第一の街の罪人じゃなくてもいいのかい?」
「あぁ、致し方ない。第一の街で支配者になれるとしたら現状朔夜くらいだからの」
「わかったよ」
「小一時間程度で構わぬ、終わったら戻って来るとよい」
「あぁ」

 栞はその場から姿を消す。朔夜と違い玄関から外に出たわけではない。その場で消えた。
 僅かに黒い塵のようなものが霧散しただけ。
 雛罌粟はその後水渚の部屋で何か必要なものはないか探す。宿主の許可をとる必要はないし、許可を取りに言ったところで、虚ろな心で何も返答はいられないと判断したからだ。
 水渚のそこそこ整理整頓された部屋は探し物を探すのに手間取ることは余りなかった。



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