零の旋律 | ナノ

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「水渚にはその間になんとかなるか――ならぬのならやはり、朔夜お主が支配者になるのが最善じゃ」
「……」
「何を尻込みしておるのか、わからなくもないがの」

 朔夜は水渚のように支配する自信がない。何より怖かった。自分の好きな街が、自分の育った街が自分の手で狂っていったらと。
 守るのは支配するより簡単だと。
 何よりあの事件の時自分は何一つ役に立たなかった。何一つ出来なかった。無力だった自分が誰かを従える事が出来るとは到底思えない。

「千朱の事は何時か起きる、その希望を捨てるな。お主らが千朱の事を諦めた時、その時千朱も死ぬ」
「……あぁ、諦めるものかよ。何年立とうが何十年立とうが、千朱のことは一寸たりとも諦めねぇ」

 強い決意を持って朔夜は告げる。
 会話をしているうちに第一の街へ辿り着く。
 度々朔夜たちを気にかけ第一の街へ足を運んでいた雛罌粟だったが、最後に訪れた時よりも確実に崩壊が近づいている現状に思わず口元を手で隠す。

「……栞が振り構っていられないのも頷けてしまう。ということじゃの」

 ――ちょ、雛罌粟、君は
 過去の想い出が一瞬雛罌粟の中で過る。

「我も全力で対処に当たらせて貰う。まずは水渚の自室へ案内してもらうかの。水渚が何処にいるかは?」
「……多分、千朱のいる所」

 千朱は第一の街にある家の一室に一目につかないようにベッドに寝かされている。
 その場所に水渚はつきっきりで足を運んでいる。
 最初のうちは目覚めると、期待で水渚はまだ“元気”だった。けれど月日が流れるうちに一生目覚めないのではという不安に心を浸食された。そして荒れ狂った。心が不安に耐えきれなくなり崩壊した。

「そうか、なら我は後で水渚の元へ向かう」
「俺も一緒に行く」

 今の水渚に敵も味方もない。近づくものを虚ろな瞳で見つめ、他者を殺す事もいとわない。
 無邪気に笑うこともなくなった。罪人をどうしようもなく憎んでいる。

「なら、まずは一緒に水渚の自宅へいくか」
「あぁ」

 水渚の自宅は千朱の自宅と反対方向。それが二人の関係。
 それが酷く痛々しいのは何故だろう、朔夜は人知れず痛みを感じる。もっと自分に力があれば守ることだって出来たかもしれない。力がない自分を嫌悪する。

「……(我とて出来ることは限られておるぞ朔。お主もわかっていると思うがの)」

 水渚の自宅に行くと予想外、否予想内の先客がいた。
 漆黒の髪を揺らし、後ろ姿でも年相応に見えない雰囲気を醸し出す少年。
 一目で誰かわかり朔夜は飛びつく。

「朔! どうしたの?」

 朔夜が飛びついたことで始めて朔夜の存在を認識したように目を丸くしている。
 普段の栞ならあり得ないことだ。それだけ神経を集中させていたのか、それとも余裕がないのか。



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