U 朔夜はその日、大人しく部屋に戻ることにした。 自分が栞の後ろをついて歩いて行ったとしても、何もやることがないから。 ならば、少しでもこの魔の巣窟と化している部屋を片付けて栞が泊まれるスペースを作ることに専念したのだった。 自他ともに認めるめんどくさがりな朔夜の部屋は出したら出しっぱなし状態で荒れている。使わない場所には埃が積み重なっている。 整理整頓がそもそも得意ではない朔夜は、どう片付けようか迷うが、迷っている時間も勿体ないと考え、とりあえず栞が泊まれる場所だけを確保した。部屋が埃っぽくなったので、朔夜は換気をする。 朔夜が部屋を片付けてから一時間十五分後、栞は朔夜の部屋に怪我一つせずに現れた。 「相変わらず、整理整頓の苦手な朔だねぇ」 口元に手を当てて栞は苦笑する。見なれた光景、見なれた場所、見なれた空間、心が安らぐ場所。 「なら、折角お前がきたんだ、片付けるの手伝っていけ、そして綺麗にして帰れ」 「片付けるって、俺の寝る場所は作ってあるんでしょ? ならそれでいいじゃん。流石に今日は俺も疲れたよ、寝たい」 「わかった」 栞は勝手知ったる朔夜の家、何処に自分が寝る場所があるかも知っている。 朔夜の案内なしで、栞は進んでいく。 「んじゃあ、寝ようよ今日は」 「あぁ、そうする」 朔夜は欠伸をする。慣れない片付けという作業をしたから疲れたのだ。そうでなくても今日は普段ならやらないことを沢山した疲れが此処にきて一気に押し寄せてきた。 朔夜は自室のベッドにダイブするとそのまま眠りについた。心地より寝息を立てながら。 その様子に、まだ寝ていなかった栞は朔夜の自室を訪れて、朔夜の髪の毛を撫でる。 「全く、朔は」 優しい笑みを浮かべながら。 「お休み」 ――何処までも純粋な、この街で生まれ育っているのに淀みなく純潔な唯一の俺の親友 朝、朔夜は起床すると、台所から香ばしい匂いが漂ってきた。栞だ。朔夜はまだ寝ている頭で、けれどしっかりと理解した。この独特の香りは栞の料理の匂いだと。 「珍しいね。低血圧の朔が、こんな時間に目を覚ますなんて」 「栞がいてくれたからかな」 「冗談でも嬉しいよ。さぁ、朝ご飯食べようか。その後は……そうだねぇ俺は少し別行動を取ろうと思うよ」 出来るだけのことをやっておく必要があるそう判断した栞は個々で動くことにした。 「……わかった。俺は俺で雛罌粟のところにまた行くよ」 「うん。気をつけてね。ってまぁ第二の街は安全だから朔なら問題ないだろうけど」 そういって二人は朝食を取る。 朔夜は久々にマトモな食事を取った。普段は目についたのをたいして料理もせずに食べている。かといって料理が出来ないわけではない。料理をさせれば並大抵の人よりも上手に料理を作る、そのバリエーションも豊富だ。 栞は後片付けをしてから、朔夜の家を出た。出る直前今日も泊るから部屋をこれ以上汚くしないよう釘をさして。 朔夜は街をうろつく。しかし目的の人物には出会えなかったため、そのまま第二の街へ向かった。普段は引き込もりをしている朔夜だったが、今回ばかりは引きこもっているわけにはいかなかった。自分の足で歩く。そして――辿り着きたかった。 [*前] | [次#] TOP |