零の旋律 | ナノ

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「俺が朔夜と一緒にいれる限りは勿論。……親友だろ?」
「あぁ」
「朔……今日は、第一の街にいくよ」

 栞の言葉に朔夜は顔をあげて、栞を見る。栞は朔夜の動作に合わせて手を朔夜の頭からずらした。

「栞……」
「少しは第三の街の支配者だって役に立つだろ」
「有難う」

 第三の街支配者栞と朔夜は“親友”だ。この罪人の牢獄に存在する数少ない同年代の親友であった。
 そして、朔夜は第一の街支配者水渚とも仲間だった。だから出来ることならば水渚が立ち直り、第一の街の秩序を戻してほしいと思っていた。それが最良の方法だと信じていたかった。
 けれど、朔夜の思いも空しく水渚は今も防ぎ込み荒れ狂っている。
 徐々に第一の街は崩壊の手前までやってくる。
 一度壊れかけた歯車はこのままでは治らない。
 ただ、崩壊を待つだけ。それは朔夜にとって望むことではない。
 栞にとっても同様なのだろう、だから本来第三の街の支配者である栞が、第一の街に行くと言い出したのだ。
 それだけではない、普段強がっていて弱みを見せない朔夜が珍しく弱気になり不安になり、自分を求めてきたのだから。栞はそれに答える。
 本当は、育ての父親に縋りたいのだろうと思いながら――そっと朔夜を抱きしめる。
 朔夜の震えている身体が、温もりが伝わって来る。
 仲間であり、親友。
 強がりで我儘で自由で気ままで引きこもりで低血圧で夜行性でめんどくさがり屋で、それでも大切で掛け替えのない親友。

「有難う」

 朔夜は繰り返す。朔夜の気弱な姿に抱きしめる強さが僅かに強くなる。
 朔夜と栞は第三の街をすぐに後にして第一の街に移動する。
 荒れ狂った街、最果ての街とはまた違う街。

「……この前来た時より状況は悪化しているね」

 第一の街に足を踏み入れた栞は呟く。栞が最後に此処を訪れたのは一週間前。そこまで長い月日がたったわけではない。それだけの時間でも、悪化は続く。

「あぁ……」
「これだと、持ってあと一カ月。ううん、それより前に崩落するか」

 統率者をなくした罪人の街は荒れ狂う。これ以上荒れれば、誰にも手をつけられなくなるだろう。朔夜とてそれはわかっていた。けれど理解しているからといって、容認できるわけでも受け入れられるわけでもない。

「……少しだけ、期限を延ばそう」
「どうするんだ?」
「今、俺が出来ることは多分期限を延ばすことだけだ。この街が崩落する時間までの猶予を……その間に朔は朔でどうするか決めときなよ」

 栞が一歩一歩、第一の街の中へ踏み入っていく。栞の纏う雰囲気が変貌する。
 朔夜には栞が是から何をするのか嫌でもわかった。雰囲気が溢れているから。前に進んだ栞の背中しか朔夜は見られない。けれど親友である二人はそれだけで相手が何をするのか理解出来た。
 そして朔夜はそれを止めることはしない。期限を伸ばすには、それしかないと思っているから。仮に他の手段が存在したとしても、それを行使するためには時間が足りなかった。
 だから、栞は最良の方法を選んだ。栞は自ら手を汚すことを決めた。殺さずで普段は戦う栞がこの時は、相手を他者を他人を殺す。


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