零の旋律 | ナノ

第二話:戻ってと願う願い


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「いつも、いつも一緒にいられると思った。けれど、そんなことないのに、人の命は“永遠”じゃないってわかっているのに……水渚、君はどうするの」

 漆黒の髪を砂に靡かせながら、猩々緋の瞳は愁いを見せる。
 砂の毒など気にとめない。

「……珍しいね。朔が第三の街にまで足を運ぶなんて」

 後を振り向かずに、後ろから足音を立ててやってきた人物に声をかける。
 第三の街の外れに二人はいた。

「そうか?」
「普段は、引きこもりじゃん、朔は。どういった風の吹きまわし?」
「さぁな。栞こそ少女助けたんだろ?」
「何、朔の知り合いだったの?」

 振り返り、朔夜を見る。猩々緋の瞳は綺麗で、見る者を惹きつけるようなそんな魅力を持っていた。第三の街支配者栞は朔夜に僅かに暗い影の差す微笑みを見せる。

「いや、今日出会った馬鹿の知り合い」
「そう、珍しいね。朔が他人と関わるなんて、しかも馬鹿と」
「雛罌粟に会って気がついたよ。関わったのは必至で一途で見ていられなかったからだ」
「そ……千朱と水渚が被ったんだ」
「あぁ」

 朔夜が榴華に手助けをした理由――普段なら、声をかけない可能性の方が高いのに、朔夜が手を貸した理由。
 仲間だった人物が、意識不明の重体になった。そして、同じく仲間だった人物が狂い泣き叫んだ。
 だから大切な存在同士を失わせたくなかった。あの時の、狂い叫ぶ水渚の姿を朔夜は見たくなかった。それと榴華が重なりあい、朔夜は見ず知らずのうちに榴華に手を貸していた。

「第一の街はそろそろ何とかしないと、これ以上は持たないよ。統率者のいない荒くれ者どもは、なおも荒れていくだけ。そして、今第一の街にはそれを統率してくれる程の者もいない――潮時だよ。朔」

 栞と朔夜の瞳が合わさる。

「……」
「朔。第一の街の支配者になりなよ。君は街のことも知っている。接近戦は……壊滅的だけど、遠距離においてはかなり強い。あの程度の荒くれ者どもを力でねじ伏せることも可能だよ」
「……」

 朔夜は無言だ。朔夜とてわからないわけではない。朔夜は街を愛している。だから、第一の街が失われることは避けなければならなかった。

「朔」
「わかっている……けど、俺はまだ餓鬼だ。第一、接近戦を持ってこられたら俺に勝ち目がないことぐらいお前だってわかっているだろ」
「餓鬼って、俺と大差ないじゃん」
「お前と一緒にするなっ」

 朔夜が答えを保留にしている理由を栞は知っていた。
 朔夜もまた、千朱と水渚の現状を目の前にして精神が揺らいでいる。
 朔夜の手が僅かに震えているのに気がつく。それと同時に朔夜は栞の服の袖を掴んだ。

「お前は……何処にも行くなよ。俺の隣に、いてくれよ」

 朔夜の言葉に栞は一瞬だけ、目を瞑る。そして朔夜の頭に手を置き、優しく撫でる。


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