Y +++ 二日前 「生きているー?」 朔夜とは対照的に丁寧に手入れのされた綺麗な漆黒の髪の毛は腰まで伸ばされている。猩々緋の瞳が、目の前に倒れている人物に視線を送っている。 「んーどうしようなかぁ」 目の前で気絶しているであろう人物、表情も何も伺えないのに、何処か悪人らしさを感じない純粋さを放っている少女に、漆黒の髪の毛を持つ人物――栞は頭を掻く。一体どうしたものかと。 「……まぁ、雛ちゃんの処にでも連れて行こうか」 街の外で倒れていれば、何れ砂の毒によって生命を奪われるだろう。 仮に街の中で倒れていたとしても、無事では済まない。 栞は少女を抱きかかえて、第三の街へと歩き出した。 +++ 「ってわけだそうだ」 雛罌粟は此処に柚霧がやってきた経緯を至極簡単に説明する。 その説明に、朔夜は苦笑した。 「栞らしいな、困っている人を助ける程善人じゃないけれど、倒れている人を見捨てる程悪人でもない栞らしいや」 何処かその苦笑に影を感じさせながら。 「で、お主らはどうする? この街に住むか?」 雛罌粟が榴華と柚霧に問う。 「我がいうのもあれだが、この街は他の街よりは住みやすい。此処というのであれば、我が住処を手配しよう」 「そうさせていただく。有難う」 榴華は素直に頷いた。自分一人であれば、仮に第一の街に住みついたとしても生きていける自信がある。それは自分自身の戦闘能力の高さゆえ。だが、柚霧はこの街で暮らしていくのが一番。そして何より柚霧と二度と離れ離れになりたくなかった。 数日離れただけで、どうしようもない不安と孤独感がこの身を襲った。胸が張り裂けそうになる気持ち。あの気持ちだけはもう二度と味わいたくはなかった。榴華は柚霧の手をそっと握る。 「決まりだな、朔夜はどうする? 何時でも我は受け入れてやるぞ」 「あぁ、有難う。だけど俺は第一の街に戻るさ」 「そうか、水渚(みなぎさ)の様子はどうだ?」 「相変わらず。これ以上長引くと多分第一の街が滅びるな」 「そうか」 二人の神妙な顔に榴華は口をはさむべきか悩んで、結局口を挟んだ。 「水渚とは?」 「水渚は、第一の街の支配者だ。あの街も2カ月前までは結構マトモだったんだぞ、少なくとも今よりはな。ただ、二か月前に起きた事件がきっかけで水渚が荒れてな。それ以降あのあり様」 「新しい支配者を作るとかは?」 当然の疑問を投げかける。 「……俺は水渚が復活してくれたら、一番それがいいって思っているんだけどな、多分……そうもいかねぇんだろうな」 朔夜はそう答える。口調からして水渚とは知り合いだろうと、榴華は判断する。知り合い、それも親しい間柄なら、その人物が元に戻ってほしいと思う気持ちも強いだろう。 だが、現実は待ってくれない、そう告げるばかりに、第一の街は荒れ狂っていった。 このまま荒れれば、そのうち街として成り立たなくなる。 「まぁ、それはそれだ。とりあえず良かったな。見つかって」 朔夜は立ちあがり、帰ろうとする。自分の目的は果たせた。もうこの街に滞在する必要はない。 「あぁ、ありがとうな、朔夜」 「礼はいらねぇよ」 「そうか」 「あぁ」 朔夜は最後に雛罌粟達を見てから、雛罌粟の自宅を後にした。 [*前] | [次#] TOP |