零の旋律 | ナノ

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 二人は早歩きで歩く。暫くすると第二の街に辿り着いた。決して近い距離ではなかったがそれでも第二の街には無事についた。もっとも、地の利がある朔夜がいたからこそではあるものだったが。榴華一人では迷って死ぬだろう。第二の街は朔夜が言った通り。秩序ある街だった。
 血痕が街の周囲に霧散していることもないし、人々が殺し合っている姿も見た限り見られない。煉瓦でつくられた建物も破壊され放置されている後すらない。道も整備されている。第一の街と比べて、そこは街らしかった。此処に最初に辿り着いていたら、此処が罪人の牢獄であることを忘却しそうなほどに。
 朔夜は第二の街のある場所を目指して歩く。そこは街に入ってからほど遠くない距離にあった。
 榴華はてっきり、第二の街でもしらみつぶしに歩いて柚霧を探すものだと思っていたから、朔夜が建物内に入って言った時は驚いた。だが、この場所で地の利のない自分より朔夜を頼りにした方が、いいと判断し、素直に朔夜の後についていく。
 建物の中、室内はすっきりしていた。必要最低限外何も置かれていないような空間は、少々寂しく感じる。
 その必要なものの中に含まれているであろう、ソファーには一人の少女、それも朔夜より幼い少女が座って、緑茶を飲んでいた。ピンク色の髪の毛は、一つにまとめられ縛られ、途中から巻いているのか、ロール状になっている。赤を基調とした和服に身を包み、大きく愛らしい赤い瞳は、突然の来訪者に驚いた様子はない。

「雛罌粟(ひなげし)、久しぶり」
「久しぶりじゃな、朔夜。ところで後ろの青年は誰だ?」
「あぁ……お前名前は?」
「榴華」

 お互いに名前を名乗っていなかった事を思い出す。名前を呼び合うことをしなかったためだ。といっても榴華の方は朔夜の名前を二人組の男が呼んでいたため知っていたのだが。

「榴華か、で、朔夜お主は我に何の用だ?」

 雛罌粟は対になっているソファーに座るように進めてくる。
 外見と似合わず落ち着きはらっているその姿に榴華は違和感を覚えずにはいられなかった。

「柚って、大人しくて戦闘能力が皆無な少女を探しているんだが、雛罌粟見ていないか?」
「面白いな。お主が人探しを手伝うとは、どういった風の吹きまわしだ……否、違うな。お主は水渚と千朱を被せたか」
「……!!」

 朔夜そこで初めて、自分が何故榴華に協力したか気がついた。無意識のうちに、水渚と千朱を榴華と柚に重ね合わせていたことに。

「かもな」

 否定はしないで雛罌粟に答える。

「まぁ、我は別に構わん……蘭凛!」

 雛罌粟は蘭凛という名を呼ぶと、奥の扉から二人の少年が現れた。年の頃合いは十代中ごろだろう。ピンク色の髪の毛は片目を其々隠している。二人は左右を反転したかのような同じ姿をした双子だった。

「蘭凛久しぶり、今はその“時間”か」
「見知らぬ人が来た時間がこの時間で良かったな」
「ちょいと待っているといい」

 蘭凛は現れたと思ったらすぐに奥の扉に引き返した。そしてすぐに姿を現した――少女を連れて

「柚!!」

 榴華が勢いよく立ちあがる。柚霧のところまで一目散に走りだし、少女――柚霧を抱きしめる。
 柚霧の身体を榴華は怪我していないかどうか、触っていく。照れくさそうにしながらも、柚霧は嬉しそうだった。


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