U 榴華は立ち上がり、何だと男たちに問う。 「新入りの癖に、何人も俺たちの仕事仲間を倒しているんじゃねぇよ」 男たちは榴華に倒された罪人の仲間だった。 ――報復しにきたってわけか 榴華は心の中で嘲る。自分は今――最高に機嫌が悪い。 「あぁ? それは絡んできたからだろうが」 紫電が迸る。少年は相変わらず男たちを見ようとはしない。ただ興味なさそうに紫電を見ていた。 そして紫電は容赦も情けもなく男たちを襲う。紫電の速度、威力共に男たちの実力を凌駕している。あっという間にその場にいた男たちは地面に倒れ伏した。偶々運が良かったのか辛うじて息はしている。 騒ぎにかけつけた、男たちの仲間がさらに二人、現れた。 榴華は紫電をそのままに、二人の男を睨んでいる。 「きりがねぇ、下手したら他の奴らもわいてでてくるのか……こいつらは」 少年は未だに後ろを振り返らない。興味がないと。 榴華が紫電を放ち、男たちを攻撃しようとした時、少年が右手を横に広げ榴華を制止する。 その行動に榴華は一瞬だけ攻撃の手を休める。 少年は彼らの仲間か、一つの可能性を感じ少年を睨む。 普通の人ならば、榴華が睨めば恐怖で足をすくませる。しかし少年にそのような様子はない。 「お前らさぁ、柄にもなく報復とか復讐とか下らないことばっかやってんじゃねぇよ」 少年は振り返り、そこでようやっと男たちを見据える。 「さ、朔夜!?」 「げっ……朔!?」 「何? 相手する?」 「……帰るか」 「あぁ」 男たちは少年――朔夜(さくや)の容姿を確認すると元来た道をあっさりと引き返す。 「はっ、報復のはずなのに仲間を拾わないで帰って行くあたりどうしようもねぇ奴らだよな」 朔夜はため息をつく。 榴華は現状に唖然としている。 「何お前……有名人?」 「有名人ってか、古参」 「こさっ、お前何時から此処にいるんだよ」 「お前に答えてやる義理はねぇよ」 「まぁ、それもそうか」 朔夜の年齢で古参ならば一体いくつの時からこの牢獄にいるのか、そして荒くれ者を退けたこの少年は何者なのか榴華に疑問が生まれたが、その疑問はすぐに頭の隅にお追いやられる。 今この場で重要なのは柚霧の安否だけ。 「話戻してやる。この街の外には砂の毒がある……数時間程度なら支障はない毒だがな。……この街に来ていないといえば、可能性があればあそこか。いくぞ」 中盤は独り言のように呟き、最後の言葉だけ榴華にもはっきり聞こえるように言った後、朔夜は榴華を置いて一人歩き出した。榴華はわけがわからなかったが、今この場で頼れるのはこの少年だけだった。だから榴華は朔夜に黙ってついていく事にした。一筋の望みをかけて。 朔夜と一緒にいることが自分の最善だと希望を持って。 [*前] | [次#] TOP |