T しかし、柚霧の姿は何処にも見当たらない。 一体どこへ――榴華があてどなく探しまわる。 「……柚、どこだ柚」 どれくらい歩いたことだろうか。どれだけ探し回っても柚霧の姿は見当たらない。 体力も精神も限界が近かった。それでも身体を引き摺りながら榴華は探し回る。 「おい、お前……何を必死に一日中やってんだよ」 榴華の眼前に一人の少年が現れる。榴華はぼやける視界の中で少年を見、目を丸くする。 自分に声をかけてきたからではない、その少年の幼さが原因だ。年の頃合い十代中頃だろう。白髪は無造作に伸ばしっぱなしで毛先が絡まっている。一部だけ赤いメッシュが入っているのが特徴的だった。そして赤メッシュと同じ色の瞳が怪訝そうに榴華を見ている。 「探し人がいるだけだ」 「そんな、ボロボロな姿でもか」 「あぁ」 「……ばっかじゃねぇの一日中」 少年は心底呆れているように榴華には見えた。榴華はそこで少年の言葉に首を傾げる。 「一日中?」 「あぁ、一日中やっていたじゃねぇかよ」 そこで初めて榴華は自分が一日中柚霧を探していたことに気がついた。 この空なき空は何時になっても変化を見せない。時間間隔を狂わせる。 「……お前はなんで俺に話しかけてきたんだ?」 何か目的があって近づいてきたのだろうかと、慎重になる榴華に対して少年は飄々としていた。ポケットに手を突っ込んでいる姿が偉そうだ。 「一日中、柚柚って連呼しながら周辺を探している馬鹿がいたから、話かけてみただけだよ」 「馬鹿って」 「……そんなに大切なやつなのかよ」 「あぁ、大切だ。この世界で一番大切な人だ」 榴華の清々しいまでの正直な言葉に朔夜は一瞬だけ目を細める。 ――大切か 「……特徴は」 「オレンジ色の、肩につくくらいの髪に黒い瞳。大人しくて困っている人がいたら放っておけないような性格をし、外見はお前と同じくらいの少女だ」 「……因みに、お前は此処にいつきて、少女は何時頃きた」 何故、詳細を聞いているのか少年自身わからなかった。けれど気がついた時には既に口にしていた。 「俺は今日きたばかり……だ。多分」 最後に多分とつけたのは榴華にとって時間がわからないから。 「柚は……二、三日前だと思う」 「二、三日前ね」 何処か何かを含んだような言葉に榴華は眉を顰める。 「柚の戦闘能力は?」 「……ない」 「ないってことは……死んでいてもおかしくないか」 淡々と榴華にとって耳にしたくない言葉を少年は平然とはく。 「なっ」 「お前だって知っているだろう? 一日で何人に絡まれた? 此処は罪人の牢獄、戦う術もない少女が普通に生きていけると思っているのか?」 榴華が今まで考えようとしなかった、考えたくもなかった可能性を少年は残酷につきつける。 辛うじて立っていた力を失い倒れ込むように地面に座りこみ、両手を前につく。 柚が死んでいるなど思いたくもない、生きていると信じたい。 「それに街にたどり……」 「おいおい、そこのにいちゃんよ」 少年が榴華に話しかけている時、話を遮る数人の男たちがやってきた。身体には無数の傷跡があり、手には武器が握られている。温厚な話をしようという雰囲気ではない。 少年は後ろにいる男たちを見ようとはしない。 [*前] | [次#] TOP |