零の旋律 | ナノ

第一話:大切な人


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 “罪人の牢獄”と呼ばれる場所がこの世界に存在していた。それはその名の通り、罪人たちの牢獄であり、罪を犯した者が入れられる死ぬためだけの場所。
 一度牢獄へ堕とされれば二度と戻ってくることが出来ない。待っているのは腐敗した大地と空なき空。太陽が昇ることもなく、月が輝くこともない。
 唯死に恐怖し、死んでいく場所だった。

「しっかし……此処も変った場所だな。死するだけの場所。奈落の地、地獄への回廊と呼ばれる罪人の牢獄に建物があるとは」

 青年は罪人の牢獄――腐敗した砂と建物を視界に入れながら呟く。砂と建物は境界線があるかのように、分かれていた。
 たった一つの少ない可能性を願って、青年はこの地に堕ちた。
 ――柚生きているか?
 青年は心の中で呟く。この世界で一番大切な幼馴染の存在を。天にも地にも掛け替えのない存在の名前を。

 此処は罪人の牢獄第一の街。荒れ狂い荒んだ街――ただ一人の為にこの大地にやってきた者の物語。青年は躊躇することなく街へ足を踏み入れる。大切な人を見つけ出す為に。
 僅かな希望を失わない為に。

 その姿を遠くで眺める者が一人。銀色の輝く髪を靡かせる。この風が存在しないはずの地下の牢獄で――

「此処は一体何なんだ……まぁ罪人の牢獄らしいと言えばそれまでか」

 青年――榴華(りゅうか)は街を見まわした感想を誰に話すわけでもなく、一人呟く。
 荒れ狂う街、無法地帯。罪人が集う街、そこら中に散らばる血痕の跡。破壊されたまま修理される事のない建物。誰も彼もが好き勝手にやっている姿。
 街はただ、街としてあるだけで、ならず者のたまり場。
 もし、大切な人が生きていたとしても、こんな場所にいたら殺されてしまう。不安と焦燥が迸り、榴華は足を動かし探す。道中、榴華に絡んでくる罪人がいたが、持ち前の異様に高い戦う為の力――紫電を使いあっという間に倒す。手加減をしている暇も時間もない。
 殺してはいないが、もし死んだとしても今の榴華には関係なかった。
 早く大切な人――柚霧を探したい。


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