X 「後は僕が……」 水渚の手の周りに無数の沫が新たに出現する。 「……あはは」 けれど沫は挂乎を攻撃することなく――攻撃する前に、挂乎は弾を詰め替えていた、そしてその新たな弾で水渚を狙撃しようとして――それは叶わなかった。 水渚と挂乎の間に千朱が現れる。唐突にではない、身軽な千朱が跳躍して降り立った。 そしてそのまま挂乎の方に直進し、銃口を握る。 「ふざけるなよ」 千朱は銃口を握ったまま、挂乎を睨む。 「ふざけるなよ、てめぇが支配者になんかなれるわけねぇだろ」 それが引き金となり、挂乎は銃弾を放つ。 それは千朱の手の平を貫通し、そして胸部に直撃する。 千朱はそのまま倒れ――る前に、最期の気力を振り絞り挂乎を力の限り殴り飛ばし、銃を奪い、挂乎に向けて一切の迷いなく銃弾を放った。それは心臓に命中し、挂乎は悲鳴を上げる間もなく絶命した。 銃は地面にからんと音を立てて落ちる。 そして千朱もそのまま地面に倒れ伏す。 身体は既にボロボロ、最期の一撃も受けた後、良く持ったなと自分で感心したくなるほどだ。 血で服は赤く染まり、嫌いな金色の髪も今や金と赤のまだら模様となっている。 意識だけが曖昧で鮮明で、矛盾で。 意識が途切れる前に水渚の涙を見た気がした――。 「千朱ちゃん!!」 いつ倒れてもおかしくないのに、それでも身体をはってでも千朱の元へ向かう。 「千朱ちゃん、千朱ちゃん、千朱ちゃん!!」 いくら呼びかけても返事はない。 「な、なんで……?」 何も考えられない、考えたくない、現実を見たくない、現実を見つめたくない。 沸き上がる感情に整理がつかない、ただ乾いた笑いが。 「あははははは、はははは」 壊れたように笑っても。 「はははははは、ねぇねぇねぇねええ」 狂ったように笑っても。 返答はない。その事実が重く突き刺さる。 千朱の心臓部分に手を当てれば確かにまだ鼓動しているのに、千朱から返事はない。 「あはははははははは、ねぇ、ねぇねぇねぇなんでなんでなんでなんで――!!」 叫び声は木霊する。 この地に響く。 涙は砂に埋もれ、濡れた後を残すだけ。 何度も何度も突き刺す。 何度も繰り返し叫ぶ。 空は変わらない。曇天を彩るだけ。 「どうしてどうして、どうしてどうして――」 何度自問自答しようが答えは見つからない 否、見つけられない。 心が探そうとして 心が拒否する 矛盾を繰り返す。 並列ではない天平。 拒否の割合が大多数を占めす天平。 自己防衛をし傷つけていく。 「なんでなんでなんで」 千朱が何をした、千朱が何をした。ただ巻き込まれただけ、利用されただけ。 自分を、第一の街支配者を失脚されるための駒として利用されただけ。 ――なら、何故私は支配者でいた。そんなもの固執しているわけじゃないのだからくれてやればよかった。 そうすれば、千朱は巻き込まれることはなかった。 [*前] | [次#] TOP |