零の旋律 | ナノ

V


「私の友達を巻き込んで傷つけたんだ、君たちもただで帰れると思うな」

 凛とした声に、一瞬我を忘れる罪人だが、すぐに目的を思い出す。
 挂乎を支持している罪人たちは、挂乎の命令を思い出し、それに向けて動き出す。
 最初に罪人達がしようとしたことは、水渚に攻撃を仕掛けることではない。朔夜を人質にすることだ。

「朔!?」

 水渚は叫ぶが、挂乎の反対側にいた罪人達に対する対処は追いつかない。彼らの方が朔夜に近い位置にいたからだ。
 朔夜は雷を轟かすが、華麗に交わされる。身軽さを重視した罪人で構成していた。予め朔夜の雷対策がされている。

「ふざけるなっ」

 水渚が動く前に千朱が動く。千朱の方がまだ、朔夜に近い位置にいる。
 千朱が蹴ろうとしたが、それより早く罪人が動く。万全の状態であれば、千朱は相手の攻撃など安々と交わしただろう、しかし水渚と交戦した後だ、目で追えても身体がついてこない。
 右肩をナイフで切り裂かれる。血が勢いよく飛び出す。

「ぐっ……」

 痛みで顔を顰める。ナイフが鮮明に赤く映える。

「ふざけるなっ」

 朔夜は栞を抱きかかえるようにしている。栞は現状を認識していても動くことが出来ない。モドカシイ。身体が動かない、思うように動ければ
 ――こいつら全員殺してやるのに
 力を使おうにも、使えない。足掻いてももがいても嘆いても。

「あはははっ、いいねぇ。いいねぇ」

 挂乎は楽しそうに笑う笑う笑う。

「ふざけるんじゃないよ。第一の街支配者に手を出したこと、後悔させて上げる」

 例えどれだけ傷ついていたとしても、疲れ果てていたとしても。友達を巻き込んだ彼らを水渚は許すことが出来なかった。

「その怪我で何をほざくのか」

 いくら水渚が強かったとしても、万全の状態からは程遠いい。
 その力を用いれば皆殺しが簡単に行える栞も現状では戦えない。
 脅威に値する必要は何処にもなかった。

「ほざくよ、いくらでもほざいてやるよ」

 水渚の沫は数個にまで減った。けれどそれは人の大きさ程ある沫に変っていた。
 それらに水渚は意思を持ち指示を出す。腕を上げ、そして指す。
 ターゲットを。

「泡鷹」

 ただ、言葉を載せるだけ、沫は挂乎に向かう。
 挂乎の付近で一つの沫が爆発した。挂乎は宙に逃れるように飛ぶ。しかし二撃目の沫が襲う。
 防御壁を貼り、今度は交わす。だが、挂乎にとって完璧だった防御壁でも水渚の沫の威力を全て防ぎきることは出来なかった。挂乎は咄嗟に腕でガードする。腕に無数の焦げ跡のようなものが出来る。ひりひりと痛むが、それすら挂乎は気にしない。この程度のことは想定外。
 所詮多勢に無勢であり、手負いとほぼ無傷。その差を埋めることは難しい。

「万全の策を練れば支配者などおそるるに足りぬわ」

 挂乎は手にしていた銃弾で水渚を狙撃する。水渚は重心を傾けるだけでそれを交わす。

「ならば、そのおそるるに足りない支配者の力を見るがいいよ」

 淡々と、怒りで感情を消し去ったかのように、一歩一歩確実に近づく。

 ――何時までも笑い会えたら良かったのに。いつまでも、笑いあって――大嫌いでいられたら良かったのに。
 永遠なんてないと信じていながら、それでもこの日が永遠に続けばいいと思って。


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