零の旋律 | ナノ

X


 その頃栞はいいようもない不安に襲われていた。けれど現状を放置して何処かに行くことも出来ない。
 連戦で疲れ果てていた、体力的にもそろそろ限界が近い。それでも栞は手を休めることはしない。薄香色の拳銃で敵の足を確実に射抜いていく。動けなくしてしまえばそれで構わない。殺すのは嫌い。だからこその殺さず。

「全く、なんでこんなに罪人が沸いて出てくるわけ?」

 崩落の街、廃墟の中の一角。栞を狙いすましたように罪人が次から次へと襲いかかる。決して弱い罪人ではない。中には特殊な戦闘訓練を受けただろう者も多数いる。
 彼ら相手に栞は苦戦していた。栞が場馴れしているなら、相手も同様。
 栞が強いなら、相手も同様。
 ただ違うのは数。いくら栞が強くても多勢に無勢。
 何より決定的なのは相手には栞を殺す意思があり、栞にはないこと。

「僕は別に殺されるような真似はしていないはずだよ。僕はただの一介の罪人にしか過ぎないんだから」

 支配者でもない。ただ第三の街に住む罪人と、最もそれは現在の肩書であり、過去にあった肩書はまた別だ。
 狙われる覚えが皆無、というわけではない。しかし集団に襲われ命を狙われるようなことは身に覚えがない。そこで栞は気がつく。

「……そういや、君たち別に俺に憎しみを向けていないよね」

 本当に栞を殺したいと思うのなら、その瞳は憎しみに彩られていても別段不思議ではない。なのにそれがない――。栞は一つの可能性に思い当たる。

「……ひょっとして狙いは別?」

 口に出してみても誰も反応はしない。それでも、それなら――可能性がないわけではない。
 いつも自分と一緒にいる水渚。水渚は第一の街支配者として君臨している。もしも水渚を狙い、自分が一緒にいては障害になると考えたのなら、足止めとして命を狙われることはあり得る。むしろ栞への私怨よりはずっとずっと高確率だ。

「ねぇ、教えてくれる」

 栞の瞳が変わる――鋭く鋭利に。
 自分が命を狙われるのは構わない、けれど友達が命を狙われるのは許せない。

「ならばいいさ、教えてやろう」

 一人の人物が口を開く。そこにいるだけで重圧を相手に与えるような存在感を持っていた。


- 111 -


[*前] | [次#]

TOP


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -