T +++ 栞は一人夜中の街を歩いている。此処は深夜だろうが昼間だろうが、罪人の街、犯罪が起きる確率は怱々変らない。それに何かあったとしても栞は一人で対処出来る実力があると確信していた。 ましてや第一の街支配者水渚の友達である自分に何かを企てる馬鹿はそうそういないと。 第一の街をぶらつきながら栞は考える。 「……、何か嫌な感じがするんだよねぇ」 崩落の街は昔、朔夜と二人で遊んだ場所であり、水渚と出会ってからもよく遊んだ場所。いわば想い出の場所と言っても過言ではない。 元々古参の罪人以外あの場所を知ることはない。だからこそ、幼い自分たちが安全に遊べる場所でもあった。 その場所を千朱にも教えた。そこまでは問題がなかった。 けれど数度あの場所に足を運ぶようになって何か嫌な感じを栞は感じ取るようになっていた。直感ともとれる何かを。 「……やっぱ、調べるべきかなぁ」 栞は腕を組みながら、第一の街から離れ一人崩落の街へ向かう。 夜中に行動したのは、昼間だと水渚と千朱に出会うかもしれないから。二人に余計な心配をさせたくなかった。朔夜に告げれば同行すると言い出すだろう。朔夜を危険な目に会わせたくなかった。 崩落の街、静かなもの音一つしない世界で、ただ栞が動く姿が映る。 「……やっぱりいつもと変わらない。是がただの思い違いであればいいのに」 しかしそうではないと栞の直感が告げている。何も知らないでいたら、放置していたら水渚と千朱の関係が壊れるかもしれない。約束をしているわけじゃないのに、自然とこの街へ足が赴き、そこで笑いあっている二人の関係が、いつか殺気を向き本気で殺し合う関係に発展するかもしれない。そうなれば笑みは消える。 「ってなんで、俺一人でこんなことしているんだか」 独り言を呟きながら、けれど決して面倒やそう言った感情はない。 崩落の街にある建物はその大半が崩落している。けれど中には崩落を免れ廃墟と化しただけの建物も数が少ないながら存在した。 その廃墟の中を一軒一軒確認していく。何か違和感があるとしたらそこ以外に思い浮かばなかった。 「ふわぁ、ネム……。あぁやっぱり気のせいじゃなかったのか」 昼間は何も感じなかった、そこに人影が見えた。千朱や水渚――そして朔夜ではない。 誰かがいる。栞は密かに後をつける。いざとなれば影になればいい――と判断して。 まだ引き返す要因にはなりえないと人影の後に続く。 栞の尾行を知ってか知らずかある廃墟の中に人影は入っていく。 人影が一歩歩くごとに廃墟の中で音が木霊する。音が反響しやすい作りになっているようだった。 侵入者防止策も兼ねているのだろう。こんな人気のない崩落の街で、何故と栞は用心を深める。益々何かあると判断せざるをえない。 侵入すれば足音が木霊してばれる。しかし栞にはそんなことは関係なかった。 暗闇の中で明りは灯されている。薄暗い空間の中で光と影が出来ている。それだけで栞にとって充分だった。栞は消える。 [*前] | [次#] TOP |