第三話:金の瞳 千朱はいつも通りの日常を終え、一人岐路に着く。勿論水渚と自宅は反対方向。水渚の自宅が北にあれば南に、水渚の自宅が西にあったとしたら東へ。 「たく、なんでこんな日々を送っているんだろうな」 嫌な気にはならない。 不思議が残るだけ。 出会った当初言っていた、「水渚はそれを知らない」と、ならば栞はそれを知っている。知っている上で笑いながら自分たちと付き合う。 自分たちの終わらない殺し合いとも喧嘩ともつかないそれを強制的に終了される為に 自ら怪我を被ってまで。 「栞はなんで俺なんかと一緒にいるんだよ」 返答が怖いから直接は問えない。一度でも栞へ怒りを沸くことはしたくなかった。怒りへの感情は水渚だけで充分。 ――朔も確か、水渚と同類だっけか。 水渚と朔夜は罪人の牢獄で生まれた、と二人は千朱に告白していた。栞は経緯が複雑で簡単だから省略するよ、と笑いながら何も答えなかったし、千朱もそれ以上追及しようとは考えなかった。 罪人の牢獄で生まれた水渚だからこそ、金について何も知らずに純粋でいれた。今もそのままだ。 けれどふとしたことで思う。思わずにはいられない。 何れ水渚が金について何か知識を得てしまったら。その時は自分に対して何て言葉をかけてくるのか――。 ――いいや、もし水渚がそれを知ったら憎しみをこめて殺し合うだけ。殺すだけ。 「千朱じゃねぇかよ、いつも通りか?」 時たま会話をする程度のご近所の罪人が千朱に声をかける。千朱も所構わず誰構わず攻撃をする性格ではないので自分のコンプレックスのことを言われない限りは普通に会話する。 「いつも通り。で何か用とかある?」 「いや、用って程の事はないんだけどよ。挨拶は大事だろ?」 「それを罪人の牢獄で実行されてもなんとも言えないよ。他の罪人なら場合によっちゃ、挨拶しただけで殺されるよ?」 親切心からの忠告ではない。その程度の事、理解しているから。理解している相手に態々忠告する必要性は何処にもない。 だから、ただの会話の一環。 「その辺はわきまえているって。んじゃあお休み」 現在時刻は夜。時計を見ないとわからないが深夜を回ったころ合いだろう。 空を眺めた処で曇天とした上が広がり、夜空も星空も月も見えることはない。 ――大嫌い以外の感情を抱いちゃいけない。そうしていないと、今の関係が壊れてしまうから。壊れてしまうくらいなら、大嫌いで充分。 [*前] | [次#] TOP |