零の旋律 | ナノ

V


 そんな日々が続きながら、千朱は自宅で眠りにつく。

『化け物。お前なんでこんなところにいるんだよ』

 いわれなき言葉

『金眼に金の髪とかあり得ないわ、一体何が起きたんだが』

 侮蔑される。

 夢だと千朱は夢の中で自覚しながら、夢から目覚めることが出来ない。
 朝目覚めると、汗をかいている。
 過去の夢を再び見た。此処最近は見ることがなかったのに。嫌な気分を洗い流す為、洗面台に向かい顔を洗う。けれど気分は晴れない。鏡に映る自分の姿が嫌で嫌で仕方がない。
 金の髪と瞳をしていなければ――何度思ったことか。
 千朱はふと思う。あの時は曖昧なままにしてしまったが、何故水渚たちはそんな自分と関わってくれるのか。
 尋ねてみたいと思う反面、聞きたくないと恐怖する。
 忘れよう、そう思って身体を動かす。今日もまた――水渚と喧嘩だ。


+++

 くるくると水渚は踊る。一時休戦したのち、の出来ごと。
 崩落の街で水渚は楽しそうに踊っていた。その笑顔に千朱は癒される。大嫌いなはずなのに。
 大嫌いと心の中で呪文を唱えていないと、どうにかなってしまいそうで。
 大嫌いという気持ちが変わってしまいそうで。
 ――おかしい。
 大嫌いには変えようがないのに。何故――そんな風に思ってしまう。そんな風に思うようになったのはいつからだ。
 今日は栞も朔夜も一緒ではない。

「あははっ、ねぇねぇ千朱ちゃんも踊る?」
「冗談じゃねぇ。なんでお前と踊らなきゃいけないんだよ」
「そりゃ、そうだよねー。僕だって千朱ちゃんとは踊りたくないし」

 ――嫌いだ、
 千朱は再認識する。それが二人の感情。差異はないと信じる。

「全く、なんで僕は千朱ちゃんと出会っちゃったんだか、あの時あのまんま放置しておくべきだったかなぁ」

 全ての発端は出会った時。もしもあの時水渚が千朱に声をかけなければ、現在のような関係にはならなかった。もしもを考えた時、千朱の中でどうしようもない感情が蠢く――この感情は一体何か、整理がつく前に水渚に言葉をかける。

「なんで俺に声を掛けようと思ったんだよ」
「綺麗、だったから。今まで出会ったどんな金色よりも輝いていて綺麗だったからかな」

 怒り――よりも先に沸々と沸き上がる感情があった。
 今まで、それに触れられると怒りや憎しみ殺意しか沸かなかった、それに別の感情が宿る。

「僕は太陽の輝きを知らない。けれど、千朱ちゃんのそれはきっと、太陽の輝きよりも眩しくて美しいんだよ」

 褒められても素直に喜べない気持ちが支配する。今までそう言ってくれた人は誰一人としていない。
 水渚が最初の人、そして恐らく最後の人。

「水渚……」
「僕は千朱ちゃんが大嫌いだよ」

 にっこりとほほ笑む。
 それは暗示のように――繰り返される。

「あぁ、俺も水渚が大嫌いだ」

 この感情は『大嫌い』で間違いない――はずだ。

 夢で見た気分を吹き飛ばしてくれる。嫌なことも何もかも、ぶつけてしまえばいい。


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