V 弓を放つ。ただの弓ではない。術が予め付加されている、威力の高い弓だ。当たれば律とてただでは済まない。 拳銃を地面に投げ捨て、律は短剣を取り出す。短剣で弓矢を分断し、弾く。地面に弓矢は転がる。 櫟とは違い、遠距離を得意とする水波は律に一定以上近づいてこようとはしない。 律は水波に近づこうにも俊敏に動けない今の状況で接近戦は禁物と判断し、遠距離から戦うことにする。ピンク帽子の中から手榴弾を取り出し、安全ピンを外し、水波に向かって投げる。 水波はさらに後方に下がる。爆音とともに、周囲の土が舞い、水波の視界を一時覆う。 その隙に律は再び拳銃を手にする。そして顔を両腕で覆っている水波に向けて銃弾を放つ。 水波は術で防御壁を作り、銃弾をはじいた。 弓矢を一気に三本、手に握り位置を微妙にずらして、同時に弓を放った。 それらの弓はさらに複数に分かれていき、律に向かう、 律は左手だけで戦う不便さを感じながら、拳銃をまた地面にほうり投げ、短剣を袖口から取り出す。 短剣で弓矢を払う。 短剣なら数本、袖口に隠し持っていた。 だが、このままでは拉致があかないと判断した律は再び術を使おうと決める。死霊使いの術を―― その時、頭上から火の玉が降ってきた。 水波に向けて。 「――!?」 水波はそれに当たらないように回避する。律に身のこなしが軽いと言われただけあって、水波は全て回避した。 律自身下手に攻撃して自身にダメージを負わない為、何もしない。 水波の後ろから現れたのは、先刻律を助けたカイヤだった。 「ばーん、にゃははっ」 無邪気な声色で水波に話しかける。律とは違い、戦意も殺気も特に含まれていない。 この少年は何処から現れたのか、水波は記憶を手繰るが、律との戦いに集中していた水波にはわかるはずがなかった。そもそもカイヤは移動術を使って二人の前に現れただけなのだが。 「……お前、なんだ此処に」 「それ、律律二度目だよーもっとユニークな言葉でいわなきゃ」 のんびりと会話するカイヤに、水波は口を挟む。この少年のことはよく知っていた―― 「雅契家当主、雅契カイヤ――何故、此処に」 「えー、だってほら律律死んじゃったら、僕だって困るし?」 首を傾げて、さらに疑問形にするカイヤの言動に律は思わず拳銃を一発放つ。 カイヤの登場の間に拾っておいた拳銃を。毎回使うたびに地面にほうり投げていたそれは、少し土が付着していた。 「ぎゃー、うったね、律律。焼き殺しちゃうよ」 寸前のところで回避し、眉を細めながら律に向かって話しかける。今度は疑問形ではなかった。 「あっで、話し忘れちゃった。とーいうわけで水波はこの場からお引き取り願えると光栄かな」 「……」 「僕だってめんどーな殺し合いはしたくないし、第一水波じゃ、僕と律律には勝てないでしょ? だったらお互い殺すのを諦めて円満に行きましょうよ」 「あれだけの、あれだけの被害を彼は出しているんだよ」 だから何? そう言った表情でカイヤは不思議そうに水波を見る。 その表情だけで水波は悟った。彼もまた、律と同じ存在なのだと。 「別に誰が死のうが知ったこっちゃないよ」 残酷な言葉を平然と紡ぐ。壊れて、狂って、それでも生きて―― [*前] | [次#] TOP |