U 律は自宅で怪我をした部分に薬を塗って包帯を巻いていた。 本来なら医者の治療が必要だったが、律は医者にはいかない。自分で何とかしていしまう。 あからさまな切り口、偶々怪我したでは済まない。ましてや軍に身を置いていない。 いくら貴族とはいえ、怪しまれる。ましては今や水波に隙を見せるわけではない。 応急処置をすませたら、すぐに律は再び外に出る――そこには、弓を持った水波が立っていた。悠然と構える態度に、律は目を細める。 「水波……」 「律君。なんで櫟を殺したの?」 この間対峙した時、水波は武器を所持していなかった。もっとも短剣位なら、懐に忍ばせていたのだろうが。それは、真っ向に戦って勝てる相手ではないから所持しなかった。戦意を示さない。けれど今は水波が最も得意とする武器を手にしている。 「真相に辿り着かれたらねぇ、殺すでしょ」 「僕は」 「お前は戦闘面で俺に叶わないことを知っていた。だからお前は俺を殺そうとかからなかった。それだけの差だよ」 「櫟は……どうやって君に」 水波には理解できないことがあった。何故あれだけの短時間で櫟は律の元に辿り着いたのかが。 「お前と、あいつは専門分野が違った、それだけだそうだ」 「そう……」 瞳に暗い影が宿る。落ち込んでいるのは明白だった。 「で、お前はなんで“それ”を持って俺の前に現れた?」 律はまだ武器を握れない右手に変わって、左手で拳銃を水波に向ける。武器を向けてくるなら、天才軍師と言えど、殺すだけ。 同じフィールドで戦うのならば――。 「最初は、君を真っ当な方法で捕まえようと頑張ったんだけどね。でも――君はいつも証拠隠滅を忘れない。これはきっと最初で最後のチャンスだよ。手負いの君ならね」 「成程」 「櫟と戦ったのなら、君だって無傷じゃ済まない。どういうわけか君の血は見つからなかったけどね。君がこれ以上人を殺し続けるなら、僕が君を殺して終わらせてあげる」 弓筒に手をかける。 「君がこれ以上、鎖で絡み取られる前に」 「もう、手遅れだよ」 痛む右足に顔を顰めることなく。律は後方に飛ぶ。地面に着地した衝撃で包帯から血がにじむ。 左手で焦点を合わせて水波へ銃弾を放った。しかし、水波はそれを見きって横に交わす。 「へぇ、頭脳戦が専門でもやっぱりある程度は戦えるか、見こなしが軽い」 その動きの俊敏さに、律は感心する。 「それでも――僕の勝率は40パーセントくらいしかないだろうけどね」 それでも、その40%に水波はかけた。これ以上、悲惨な末路をたどらせないために、フィフティーフィフティーでないこの舞台に上がった。早急な判断、そう問われれば否定できないだろう。それでも水波は決断した。戦うことを。 [*前] | [次#] TOP |