零の旋律 | ナノ

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 その数十秒後、悧智と水波は辿り着く。
 櫟の現状に目を細める――

「隊長!?」

 悧智が駆け寄る。もう生きていなとわかっていながらも、それでも、櫟を何度も何度も揺らした。その瞳は隊長を失った悲しさと、殺した相手への憎悪が映る。

「隊長、何故……」

 白き断罪の武術派である櫟がこうも無残に殺されるなんて悧智は考えたことがなかった。術にも精通していて、それだけでなく武術もいつも鍛えていた姿を見ている悧智だからこそ、信じられなかった。
 水波は思わず壁を叩く。廃墟とはいえ、コンクリートで出来ている壁が崩れるなんてことはなく、痛みは水波に直接伝わるが、水波は気にしない、唇をかみしめ、ぐっと怒りを抑えようとする。

 また、間に合わなかった自分に嫌悪していた。
 何故――放っておいたのだろうか、その思いが水波を支配する。

「一体……水波、誰なんだよ、隊長を殺したのは」

 声を荒げて、悧智は水波に問う。問うことしか悧智には出来なかった。

「御免……悧智……」

 しかし、水波には犯人を教えられなかった。教えてしまっては――いけない。

「隊長を殺したは誰だ? 教えろ、俺が殺してくるっ」

 胸倉をつかみ、悧智は怒りの表情を隠すことなく、水波に問う。

「駄目だ!! それに殺すなんて言っちゃ駄目だよ。今君がいって勝てると思っているの?」

 相手を冷静になだめようとする。
 今行けば勝てたかもしれない――その可能性が零ではないことを知りながら。

「っ……」
「相手は、あの櫟を殺した相手なんだよ? それを君がいって仇討ち出来ると思っているの?」
「……」

 悧智は何も言わない、そして何も言えない。悧智が傷つくことを知りながらも、傷つけさせるしか、悧智を止める方法はなかった。名前を告げたら、一目散に相手の処までかけていっただろう。

「ごめんね……ごめんね。僕が……」

 水波もこれ以上何も言えなかった。

「わかったよ……」

 悧智は納得出来なかったが、それでも水波の言葉に従った。
 自分の何も出来なかった非力さを恨みながら――静かに隊長に眼を向ける。失ってしまったものはもう二度と、戻らない。それを実感する。

 水波も櫟の姿をこの目に焼き付けた。

 ――君がこれ以上誰かを殺す前に

 そして決意する。



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