第三話:策 +++ 律は廃墟の壁に背を預け、暫くの間座り込む。目の前にはもう息をしていない櫟の姿。うつ伏せに倒れて、白い服は今や真っ赤に彩られている。 「はぁはぁ」 律自身、あちらこちらに酷い傷を負っている。止血は一応したが、無理には動かすことが出来ない状況だった。今まで相手にしてきた相手よりも数段強い相手に、苦戦を強いられた。律自身、苦戦を強いられたのは久々だった。 このまま暫くこの場で休んでいたいところだが、そうは状況がさせてくれなかった。 一目のつかない廃墟だというのに足音が聞こえてくる。味方ではない――敵の足音が。 律は身体を引きずってでもこの場から脱出しようとするが、この場にいてもいなくても変わらないだろうことを思い出す。このまま櫟を殺したまま放置しておけば、水波は証拠を何かしら見つけてくるかもしれない。第一、この場には律の血も沢山残っている。 律は後始末をしようと身体を動かす――その時、律の目の前の地面に魔法陣が現れた。光を帯びて、魔法陣が具現した後、姿を現したのは少しうねった白髪に赤い瞳が特徴の少年がいた。外見年齢だけでいうなら、律よりも3つ4つ年下に見えるが実際は律より一つ下、そして――雅契家直系の少年。 「カイヤ……お前どうして此処に?」 カイヤは白い杖を手にしながら、現場を見まわした。そしてそのまま櫟の前で術を唱える。カイヤの掌には直系20p程度の術式が現れた。その術式は血をカイヤの掌に集める――特定の血だけを。 「さて、逃げるよ。律律」 「……お前」 「律律の血だけ、抜き取っておいたから、血から律までたどり着けることはないよ。それとも、僕の術が不安なの?」 「お前の術は疑う余地はないよ。だが、何故此処にきた?」 問いながら、カイヤがこの場に来る可能性は一つしかない、そう確信していた。 「あったり前のこときくんだねぇ。泉に頼まれたからに決まっているじゃん」 あっさりそう言い放ち、律の左腕を掴む。そして座っている律を立たせる。カイヤは術を唱える。足元に魔法陣が浮かび上がった。 「さっさと逃げないと、白き断罪第二部隊の悧智と、天才軍師水波が来ちゃうよ。いくらなんでも今の律の状態で、彼らを相手にするのは苦労するよ」 おかしそうに笑うカイヤに、はぁと律はため息一つ。 「お前、俺が怪我して楽しんでいるだろ」 「あったり前じゃん。律律の怪我している姿なんて滅多に見られないんだから」 「このサディストめ」 「にゃははは」 そうして、二人はあっという間に姿を消した。 [*前] | [次#] TOP |