零の旋律 | ナノ

Y


 その様子に櫟はさらなるククリを取り出す。先ほど使っていたククリは後方に飛ばされた。武器は大量に仕込んできた。その為に――。

「全く、何本持ってきているんだよ」
「一つの武器がやられたから、そういって攻撃の手段がなくなっては困るんでな。武器は大量に持ってきた」

 小型のククリ二本用意する。それに今度は黄色い閃光が纏った。
 術の展開速度の速さに、律はため息をつきたくなる。血の流れが速い。止血を早いとこしないと。しかし止血をしながら勝てる相手ではなかった。

「全く」

 ピンク帽子を外し、その中から拳銃を取り出す。
 だが、律は忘れていた――櫟は術の達人だということを。
 銃弾を連射したが、櫟の目の前でそれらははじけ飛び、自身に戻ってきた。速度を落とさないままに――

「ぐっ」

 それが、怪我をしている右肩、右太ももに着弾する。
 血飛沫があがる。律は苦痛で顔を歪めたが、それでも体制を崩すことはしない。ひるんでしまえば、下がってしまえば、その時点で負けるのだから。

「そろそろ降参すれよ。お前は確かに強いけど――経験の差だ」

 いくら相手が死霊使いと呼ばれようとも、沢山の人を殺そうとも、年の差そして場数は櫟の方が上だった。それに今回は対律用の装備を態々容易してきた。対戦相手が誰だかわからない状態だった律より、最初から有利の立場に立っていた。万全を期して、挑んだ。

「……舐めるな!!」

 だが、律が鎌を振るうより早く、律の右手首にククリが当たる。
 律は素早くククリを抜いて、遠くに投げた。
 黄色いククリは爆発こそしなかったが、腕の感覚をなくした。何か薬でも仕込んであったか、律はそう判断する。動かそうとしても力は入らない。

「……わかったよ」

 律は決めた。これ以上長引かせるだけ、自分が不利になる。それだけだ。
 これ以上時間をかければ何時死ぬともわからない。
 だからこそ、最後は“右腕を犠牲”にした。左手はまだほぼ無傷といっていい程。怪我をしていない。
 左腕は自由に動く――。

 口で器用に左手の服をずらす。肌を見せた腕には奇妙な紋様が入っていた。

「それは?」

 怪訝そうに櫟は相手の出方を伺う。下手に突っ込んで見ず知らずの攻撃を受けてはたまらないからだ。
 まだ、相手から戦意は失われていない。むしろ上昇している一方だ。
 やけくそになっているわけでもない、相手は理性を保っている。
 恐ろしく冷静に――例え、どれ程血を浴びていようとも、相手は怯まなかった。
 此方が圧倒的優位に立とうとも。

「俺の、志澄の、死霊使いを見せてやるよ」

 紋様は歪に彩る――

「何だ!? これは」

 律の前に現れるは無数の――



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