零の旋律 | ナノ

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 櫟は左手で小型のククリを取り出し術を付加する。赤い光を浴びたククリをそのまま投擲する。
 律の顔面に向かってきたそれを、顔を右側に傾け回避する。壁にぶつかったククリは赤い閃光を上げて音なき爆発をする。廃墟はさらに崩落していく。その破壊力に律は冷や汗が流れる。
 一瞬ともいえる短い時間で、あれだけの高位術を櫟はやってのけるのかと。

「流石、白き断罪第二部隊の隊長だこと」
「褒め言葉として受け取っておくが――術に関しては俺の部下の方が上だ」

 ――悧智か

 律はその術が上の人物の名前を思い浮かべる。この場に櫟が誰も巻き込まないように一人できたことに感謝した。流石に二人同時に相手にするには骨が折れる相手だ。
 律は大鎌を振り回す。相手の首元を狙い、一撃で仕留められるように。
 しかし相手のそれを見きって交わしていく。それこそ、あえて交わせるギリギリのタイミングで。そうすることで、律の次の攻撃までの隙を作ろうとしているのだ。最初から交わしてしまえば、攻撃の手段を変更してくる、そう判断して。
 そちらの隙を狙う。
 懐の潜り込み、櫟は足払いをしようとすると、律は軽く後方に跳ねて交わす。
 櫟はその着地地点を狙って、再び小型のククリを投擲する。

「――!?」

 律の着地と同時にククリは爆発する。またしても音はない。
 煙が周囲に僅かに立ち込める。視界を覆うほどではない。

「ちぃ……」

 ギリギリで防御壁をはった律だったが、それでもぼたぼたと血が滴る。右足首をやられた。そう判断する。足を引きずるように後方に下がる。
 しかしその時視界に櫟はいなかった。
 何処だ、と感じる間もなく、櫟の居所が判明する。右肩から、斜めに櫟はククリを律に向けて振り下ろす。後方からの攻撃に避ける術もなく、律はその攻撃をもろに受けてしまう。
 黒い服は赤く滲む。律は袖口から短剣を取り出し、櫟に向けて斬りかかり櫟を遠ざける。
 鼓動が速くなるのを律は感じる。肩から痛みが全身に広がるようだった。律は荒い呼吸を整えようと一度深く息を吸う。
 右手がしびれる――右肩をやられたせいか、手に力が入らない。

「ちぃ……なんだよ、お前……」

 予想より格段と強い相手に律は驚きを隠せなかった。この男はある意味水波以上に予想外の男、そう判断する。痛みを我慢して、大鎌を櫟に向ける。大鎌は律にとって何時でも取り出し自由自在。

「ほお、まだ戦えるか」

 その様子に櫟はある種の感心を抱く。普通の相手なら、痛みに負けて倒れるはずが、この少年は未だ戦意も殺気も衰えることはない。

「当たり前だろ?」

 ニヤリと顔を歪める。



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