零の旋律 | ナノ

V


「……何故」
 律は隠さなかった。しかし律の口調はいつも以上に、感情を押し殺したようなものだった。
 その言葉に口元を櫟は緩める。

「天才軍師様の専門分野と、俺たちの専門分野は違う、それだけだろ?」

 それだけ、専門分野の差。水波とは違う方法で、櫟は律に近づいてきた。

「まぁ、そうだけど――その程度で俺のところまでたどり着けるはずがない」

 専門分野の差、それだけで辿り着けるのなら、律の元へは今まで一体何人の軍人が訪れたことか。
 例え今回、相手が予想以上に早く来て、後始末をする時間が極端に短かったとしても。
 その程度の想定外の出来ごとで捕まる律ではない。

「何を変なことを言っているんだ? 白き断罪は戦闘のスペシャリストだぞ?」
「……」
「ってのはまぁ置いておいて。現場の破片、および破損状態」

 律の返事がなくとも、律は振り返らなくとも、櫟は続ける。

「普通に考えろ? 建物内だぞ、それをあそこまで跡形もない、鉄も金属も関係なく縦横無尽に破壊された。おかしいだろ?」

 律ははっと顔を少しだけ上にずらした。別に抜かりがあるわけではない。ただ“徹底的に壊しただけ”

「熟練の使い手じゃなきゃ、早々鉄は切れない。原型がないほど、破壊するのは容易じゃあないだろ? なら、自然と戦闘面に特化したやつだ。でもそれだけじゃあ、人数が多い。俺たちまで含まれてしまうからな。だから、さらに詳しく絞った。術を使った痕跡はない。これは術を得意とする白き断罪第二部隊の調査結果。これを俺は疑わない。術を使った破壊なら、雅契家でも疑ったんだろうけどな。そうなると――武器による戦闘面に特化したのが犯人となる。そしてこの場合、破壊された物を一つ一つ復元して、その切り口を俺の知り合いに見てもらった。剣の仕業じゃなかった」


 律は黙って櫟の言葉に耳を傾ける。その中でこの男をどうするか考えていた。
 此処から先、相手の言いたいことは手に取るようにわかる。
 だからこそ――このままにするわけにはいかなかった。

「鎌。それもでかいサイズの方のな。鎌を武器に使う奴なんて滅多にいないからな――例外として、志澄家は鎌を武器として扱っている。死霊使いって雰囲気まんまだよな。鎌の達人、それでいて人を躊躇なく殺しそうな奴、まぁ後は適当に繋ぎ合わせてお前を尾行したそれだけだ」

 尾行に“最初から”気がついていた――それは一体いつからだ。
 律は記憶を手繰り寄せる。しかし、いつからか尾行に気がついた。
 水波瑞が相手なら尾行の心配はない、そう思って鷹をくくっていた。事実だった。



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