零の旋律 | ナノ

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 泉の部屋をノックしないで入る。
 何時見ても、何時見ようとも黒で統一された部屋だ。以前泉に黒以外の服を着せたくて、クローゼットの中身をごそっと変えてやったら次の日、律の部屋のクローゼットの中から服が全部消えた。
 そんな郷愁に浸りながら、泉を見る。玖城家に訪れるときはいつも夕方から夜だ。夜行性の泉は夕方からしか起きていない。夜に訪れも活動時間である律にとって大変なことではないが。夜中に訪れた場合規則正しい生活を送っている郁は確実に寝ている。だからこそ、二人の顔を見る為に、律は夕方に訪れる。
 泉は本を読んでいた。流石に市販されている本を黒い表紙の本だけ買いそろえる――というわけにもいかず、本の表紙は白かった。

「で、何?」
「いや、どうせきたなら顔を見せておけって思っただけ」
「そう」
「苦戦しているなら、手伝おうか?」
「いや、いいよ。是は俺が気に入らないから俺一人でやったこと。態々泉の手を借りるまでもないよ」

 泉は此処数日何が起きているかを把握している。把握出来なければ情報屋は務まらないだろう。

「ヒヤシンス――意味を知りたいか?」
「いやいいよ」
「……少しは此処にきて息抜きにはなったか?」
「ん? あぁ」

 ――息抜きも何もお前らに会うだけでいいんだよ

 律は思いを心の中で口にする。



+++


 ――さて、律君。君はヒヤシンスの花言葉を知っているかな?

 水波が自室で一人思案している時、白き断罪第二部隊隊長櫟は殺害現場で破壊された品々を眺めていた。部下の悧智は一緒ではない。

「やはり……これは……」

 壊れた後を見つめ、一人呟く――。
 その後、一つの壊された物に目をつける。術式を使って、分析する――そして、それと同じ成分の物を集め出した。
 一つの答えに辿り着くために。
 是から先もこの殺人が続かせるわけにはいかない。

「全く、底もあり蓋もありだなぁ……」

 思わず言葉をついて出てくる。


+++


 数日後、律は水波への偵察を含め周辺をうろついていた。
 一目を避け、何もない廃墟と化した裏路地を歩き――ぴたり、と足を止める。

「誰?」

 後ろを振り返らずに袖口に隠している短剣を取り出す。
 後をつけてきているのは最初からわかっていた。だから、態々人気のない場所を選んだ。

「白き断罪、第二部隊隊長櫟」

 相手は名乗りを上げ、一歩一歩確実に律に近づいてくる――武器を片手に構え。

「……白き断罪? あの、政府直轄組織? それが俺に何の用?」
「唐梅を殺しただろう?」
「――!?」

 律の表情を櫟は見えない。律の背中を見ているから。
 けれど、律の表情は手に取るようにわかった――驚愕していると。敵は水波瑞――天才軍師だけだと鷹をくくっていただろう相手だから。だからこそ、尾行して人気のない場所まで赴いてもらった。



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