T 「じゃあ、物事を結末まで持ち込まないとね。唐梅を殺した犯人を捕まえないとね」 「捕まえなきゃ、是から先もどんどん被害が溢れていくな。あんな人を殺すことを何も思っていない――何も感じられない相手がいるってだけでおぞましいもんだ」 櫟の声調こそ朗らかだが、言っていることは真剣だった。少しでも場を沈ませないための櫟なりの気遣いだった。 「そうだね――彼は眼中之釘には容赦も情けも慈悲も何もないしね」 “彼”その名詞に櫟はニヤリとした。 「水波はやっぱり、今回の犯人を知っているんだな」 「うん。知っているよ――といっても確証は何処にもない。ひょっとしたら僕の的外れな推理で犯人は別にいるかもしれない。だから確証が持てるまでは君たちには教えてあげられないね」 正直なことを言っても、彼らに憤慨した様子はなかった。むしろやっぱりかと納得しているようだった。 「じゃあ、俺たちは俺たちで確証にまで至らないといけないってわけか」 悧智が面倒そうに言った。けれど面倒というのは本心ではないだろう。これもこの場が暗く沈まないための気遣いだと水波は判断する。 案外細かいところまで気が回るもんだと密かに感心した。 +++ 玖城家――そこは屋敷の敷地内に一歩踏み入れれば閑散とした雰囲気に此処は嘗ての城の名残かと思わされる程、誰もいない。 広大な屋敷の建物内に足を踏み入れたところで、執事もメイドも殆どいない。 広々とした空間はただ静寂に包まれている。ある種の恐怖をそれは相手にとって抱かせるだろう。 そこを今、一人の少年と呼ぶにはあまりにも壊れて、そして残酷な存在が歩く。 自分の庭と同じようにこの空間は少年――律にとっては何度も足を踏み入れた空間。 目をつぶっても自分の主の元へは辿り着けるだろう。 律にとっては少しばかりの小休止のつもりだった。いつも空気を貼り詰めていては疲れるだけ。 疲労した時は、隙が生じやすい。それで失敗してしまうくらいなら、小休止をして、疲れを取った方が効果的、律はそう判断し玖城家の屋敷を訪れた。もっとも玖城家の屋敷が休息の地として相応しいかと問われれば、否。 けれど、誰が何といったとしても、律にとって此処は休息の地であり、安らぎと安寧をある種もたらせてくれる場所だった。大切な人がいるから、大切な人に会えるならそれでいい。それで構わない。 広い廊下を歩いていると、前方から走ってくる少女がいる。相変わらず真っ黒の服装だが、それでもある程度は可愛らしく趣旨を凝らしている。 「律にぃ、いずにぃがお待ちかねだよ」 律の目の前で止まり、少女――郁は笑顔で律を迎える。それだけで律は癒される。この空間が例え安全でなくとも、律にとってこの空間は安らぎ。こうして再確認する。決して失いたくない存在だと。この少女も主も。自分にとって唯一無二の大切な存在だから そして相変わらず妹を使い走りにするなと心の中で呟く。 [*前] | [次#] TOP |