零の旋律 | ナノ

第二話:NOTステールメイト


+++

 水波は自室で作戦を練っていた。櫟と悧智は予想以上に有能だった。ならばこれ以上人数を増員する必要はない。下手に大人数で事にあたって情報があちら側に漏れたら困るからだ。少数衛生で水波ことに当たることを好む。情報漏洩を必要最低限以上しないためだ。情報屋に情報が売られたら元も子もない。律は情報をもっとも得やすい立ち位置にいる人間。だから水波も必要以上に神経を貼りめぐらせ、敏感になろうとしていた。
 玖城の情報入手経路も仕組みも何もしらないけれど、それでも。神経を使って可能性を一つでも低くしていく。

 櫟と悧智双方第二部隊陽炎のトップだけあって術に非常に長けている存在。術にたけている存在は元々術を専門としている雅契に連なるものが多いなかで、二人は雅契とは関係ない稀有な存在でもあった。
 それゆえに、他の術者たちからも一目置かれている。もっとも悧智の上司に対してあまり尊敬の念を見せない態度は問題となり、一部の人間からは嫌われているようだが。
悧智も数年もしないうちに、もっと上に出世するだろう。水波はそう考えていた。
 世渡り上手というわけでは決してなかったが。

 そこまで考えて、もし行くあてがなくなったら自分が貰おうと考える。
 いらないものを拾うのは勝手だ。
 そんなことを考えながら、話が横道にずれていることに気がついて思考を切り替える。
 宣戦布告はした。これから先どうするか。


「(今頃律君は一面のヒヤシンスを見ているころだろうね)」

 はたしてそれが通じるか通じないかは別として。櫟も悧智もその意味は知らない様子だった。

 暫くすると扉がノックされる音がする。水波の返事を待たずして、扉が開けられる。 二人の人物、白き断罪第二部隊の櫟と悧智がやってくる。

「ねぇ……一つだけ確認してもいいかな?」

 水波は一つどうしても問いたいことがあった。此処から先に進むのなら必要なことを。
 守りきれる自身等何処にもない。相手が相手なのだから――もっとも戦闘面で言えば水波よりも櫟や悧智の方が上なのだろうが。

「何?」
「なんだ?」

 二人の質問。水波は一息置いてから口を開いた。

「これ以上先に進んだら――何が起きるかわからない。もし命が惜しいというのなら此処から先は僕に手伝わなくていいよ。元々是は本来の任務から外れた私用な僕のお願いでしかないのだから、命までかける必要性なんて皆無だ」

 知らず知らずのうちの言葉がとがる。

「何を言ってんだ?」

 悧智は心の底から不思議な顔をする。

「孟母断機」

 それだけを悧智は言った。
 思わずその言葉に水波は笑いそうになる。慌てて口元を手で覆い隠したが、行動があからさま過ぎた。
 しかしそのことには櫟も悧智も触れなかった。

「そういうことだ、天才軍師様」

 からかうように櫟が水波に声をかける。

「有難う」

 水波は微笑んだ――。力強い仲間が今回は出来た、だから今度はステールメイトにはしないよと、机の上に置かれたチェス盤を眺める。



- 125 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -