零の旋律 | ナノ

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「で、どうするんだ?」

 隊長が水波に問いかける。
 あくまで自分たち白き断罪第二部第陽炎は戦闘部隊。作戦参謀の軍師とは勝手が違う。第一犯罪の取り締まりは主に第三部隊白蓮の領域だった。

「んーそうだねぇ、今回は荒いから、ひょっとしたら犯人を捕まえられるかもね」
「ひょっとしたら、ってことは前は捕まえられなかったってことか?」
「うーん、まぁそんな感じ」
「そうか」

 もしも、もしもなんて先はないけれど、水波が悧智に犯人の容貌を姿を名前を告げていたらまた結末が変わったかもしれない。
 それが何年後だったとしても、悧智は今回の出来事を忘れないだろう。

「捕まえられたらそれにこしたことはないし。じゃあ、質問二人は今回の事件の犯人は誰だと思う?」
「さぁ、猟奇的殺人事件――ってか、こいつは人に対して何の感情も抱いてねぇだろ。人が死のうが生きようが関係ない。例えこの街が全て滅んだとしてもこの犯人は何も思わないだろうな」

 悧智の返答。

「悧智に俺も同意だ。こいつは戦闘技術が飛びぬけているな。訓練を受けたプロ。素人じゃあこんな真似は出来ない。そして壊れているな」

 櫟の返答。二人の返答に水波は感心する。やはり見ているところは見ている、そして
――冷静だと。
 この間の荒勢とは違い、冷静に犯人を分析している。もっとも荒勢は踏み入れていない領域だったから仕方ないといえば仕方ないのだが。
 この無残な空間で、自我を見失うことなく。それこそ死に慣れてしまったのだろうか、水波はそう思考する。

「櫟、お願いがあるんだけどいいかな?」
「なんだ?」
「この現状の現場鑑定が済んだら、ヒヤシンスを床一面に容易して。勿論代金は僕が払うから」
「何故?」
「僕からの宣戦布告ってことで……最適な言葉ではないけど、それに代用する形ってことで今回は勘弁してもらうかな。今度はちゃんとしたのを用意するよ」

 ニヤリと笑った水波の意味を櫟も悧智も知らなかった。
 そして櫟は水波のお願い通り、その後ヒヤシンスを床一面に飾りつけた。
 一体是に何の意味が存在するのか理解しないままに。


+++


 軍人たちが全ていなくなった後、確認作業のため律は再び現場に舞い戻ってきた。犯人は現場に戻ってくる、そういうのならば水波はその場に残るという選択肢も当然存在した。
 しかし水波はあえて、その日の夜は誰も警備の人を残さなかった。律も当然是が誘いだと理解している。
 それでも、律は再び現場にきた。

「……ヒヤシンス? どういうことだ」

 床一面に飾りつけられたヒヤシンスに律は首を傾げる。一輪手に持ってみたが、特殊な術式も何も組み込まれていない。本当にただの花だった。何の変哲もない。ただ、床一面に飾りつけられている違和感が律を包み込むだけ。
 一体天才軍師水波は何をしたいのか律には到底理解出来なかった。
 今回律は焦っていた。普段なら証拠一つ残さないように念入りに後始末をしていた。だが、今回はそうはいかなかった。後始末をする前に水波たちが来てしまったから。予想外であり想定外。それゆえに今回の出来事は普段以上に慎重にならざるを得なかった。そうしなければ足がつく。自分が犯人だとばれるのは構わない。けれど決して証拠があってはならない。
 だから律は罠だと知りながらも現場に戻ってきたそれだけ。

 そしてそこでヒヤシンスを発見した。しかしそれがどういった意味を持つのか律にはまだ理解出来なかった。律自身理解しようとは思わなかった。水波の意図はわからないが、ヒヤシンスに囚われているわけにはいかないから。今回はやることが沢山ある。


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