零の旋律 | ナノ

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 瞑想する。精神統一をする。思考を統一する。

「……さて、行くか」

 ピンク帽子被り、律は険しい表情で自室を後にする。是から人を殺す。
 自分たちに害がある存在が現れたなら、実害を及ぼす前に殺してしまうだけ。後から慌てないように――後から始末すると足がつきやすくなる。
 此方に怨恨が出来る前に始末してしまえば、此方までたどり着ける可能性は低くなる。

 だから、律は前もって行動をする。
 例え、それは泉が命令していなかったとしても、
 例え、それは泉が伝えてなかった事だとしても。
 律自身、知ってしまえば動く。

 そうして、どんどん敵を増やしていく。休まることのない空間に足を踏み入れていく。もう抜け出せないところまで深く深く――深淵に向かい歩きだしていく。
 けれど、律は歩くことを止めない。
 その先に光がなかったとしても、それでも律は歩み続けるだろう、たった二人の大切な存在のために。その為に、光が消えたとしても構わない。二人が律の光なのだから。



 軍の名家唐梅(からうめ)、今回律が殺すターゲットの名前だった。
 名前といっても唐梅家を殺すだけではない、今回のことに関連する人物たち全てだ。


 血で周囲は染まっていた。血の匂いが周囲に蔓延する。
 律は鎌を片手に冷ややかな瞳で数分前まで息をしていた彼らを見下す。
 何処までも残酷で冷酷に、一切の情はなく、ただ無慈悲に――
 律は無言のまま、後始末をしようとした時だった。屋敷の外から、人が入ってくる気配を察知する。

「――!? 馬鹿な……」

 誰かが、複数人やってくる。その事実に律は焦りを覚えた。
 外の侵入者を殺すか、そんなことが脳裏をよぎったが、律は首を横に振る。
 この気配は感じた覚えがある。忘れもしない、数か月前であったあの天才軍師の気配。
 それだけではない。ただ者ではない気配が二つ感じられた。足取りが、動きが慎重で敏捷だ。

 ――殺すより、破壊した方が早い

 そう判断した律の行動は素早かった。
 自分の証拠となりそうなものを一取り鎌で破壊する。破壊できるだけ、跡形もなく。
 時間はない。だから出来る限りのことを限られた時間で律はした。
 もとより指紋を残すような馬鹿な真似はしていない、手袋をいつもはめている。
 毛根云々に関しては何も言えないが――その時はその時。
 あっという間に殺害現状は血が滴る現場でもなく、ただ、無残に破壊された現状へと変貌した。

 今までは静かな空間が破壊された。
 律は入口を使わず、建物を破壊して、その場から逃げ去った。
 数分も立たないうちに、律が先刻までいた場所の扉が開かれる。

「……遅かったか」

 水波は手遅れだったことに、手に顔を当てる。

「随分と無残に殺されたものだな……」
「全くだ」

 律の隣に律を守るように並ぶのは、白い服が特徴の二人組だった。
 政府直轄機関白き断罪第二部隊陽炎の隊長、そして同じく白き断罪第二部隊陽炎補佐官。二人が並んでいた。


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