零の旋律 | ナノ

V


「それは、お互い気が合いそうだな」
「そうだね、僕も千朱が嫌い、千朱も僕が嫌いなんて、なんて素敵な両思いなんだろうね、最高じゃないか」
「全くだ、最低で最悪だ」
「はいはい、そこの仲良しお二人さん、仲のよい恋花なら、もっと別の場所でやりなよ、特に千朱、君は命が惜しいなら、早々にこの砂から立ち去ることをお勧めするよ」
仲裁しないと、永遠と続きそうな勢いの二人に栞はため息一つ。
「はぁ? どういうことだよ」

 この牢獄にきたばかりの千朱はこの牢獄のルールを知らない。常識を知らない。

「そろそろ、罪人の牢獄入口に看板の一つでも立てておいてほしいよね、そしたら一回一回説明する手間暇が省けて効率がいいってのに」
「だからなんだよ」

 何を言いたいのか理解出来ない千朱は徐々に栞に苛立ちを示していく。そんな様子が表情から読み取れる。栞は心の中で単純馬鹿と呼んだ。
 感情に出やすい千朱とは対照的に栞はポーカーフェイスだ。


「この罪人の牢獄、街以外に存在する砂には、人体に有害な物質――つまり毒が含まれていてね、長時間その毒に触れ続けると、簡単に言うと死ぬんだよ。だから、死にたくなければとっととこの場から離れて街まで行くことをお勧めするよ」
「それならよぉ」
「何?」

 千朱には疑問があった。ならば何故――彼彼女は此処にいる

「お前らにだって、此処は毒だろ? なんでその毒の地帯を平然といるんだよ。まさかただの散歩とふざけたことはいわねぇだろうな?」
「ん? あぁ、そりゃあ確かにこの場所は毒だけど、毒の量は微量で、別に短時間ならさほど人体に影響を及ぼさないんだよ。それに一つ補足しておくと、俺と水渚にとっては、この毒は別に毒と呼べるような代物でもないしね」
「どういうことだよ」

 水渚が単刀直入に言い、回りくどくないタイプだとしたら、栞は何処か回りくどい。そう感じる千朱だった。その点だけで言うならば、水渚の方がずっと好感は持てるはずなのだが、千朱は何故か水渚だけは好きになれなかった。
 本来千朱の性格からすれば、どちらかと言えば栞の方を嫌うはずなのに。感情ではなく、理論で動く栞を嫌いなはずなのに。千朱は疑問を覚える。

「簡単にいえば、俺と水渚はこの牢獄にいる期間が長いから、耐性がある程度出来ているんだよ。それにいつも、街の中に引きこもっているのも飽きるでしょ。偶には外の世界にも散歩をしたくなるってわけ、御理解いただけましたかな」
「……あぁ」

 一応の一応理解出来た千朱は不承不承そう頷く。

「僕は君が大嫌いだから、君には僕の喧嘩相手にでも生きてもらうってのはありかな?」

 とんでもない申し出だった。水渚から千朱へのそれは愛の告白だったのかもしれない。
 水渚にとってはなんでもない、本当に些細な気まぐれであった。
 嫌いな相手なら殺せばいいのに、殺さずに生かす道を選んだのは本当にその時の気まぐれ。気分。
 そして千朱も水渚の申し出を断らなかったのは、なんとなく。なんとなく、そこに理由はない。ただ理由も理論も、理解も何もなく、何気なくさし伸ばされた手を握ってみただけ。それだけのこと。

 それが、是から先の命運を分けるとも知らずに――


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