U 「ってかさぁ、そろそろ水渚からどきなよ。殺すよ?」 最後は殺気を僅かに含ませる栞に、千朱は水渚の上に乗っかっていたことを思い出した。 「あぁ」 「水渚も重いっていわないと」 「そこまで太ってはいないが」 別に重いわけでもなかったが、軽くもないだろう体重長時間でもないしと思ったが、千朱が水渚の顔を見ると、顔を僅かに顰めて苦しそうだった。 「体力ないな」 そういえば。術師だったかと思いながらも、何故か水渚の上からどく気分にはなれなかった。 栞には何かを言われても腹立たしい気持ちになることはなかったのに、何故か水渚を見ると腹が立った。その理由は千朱自身わからなかったのだが。 「体力ないって、上に乗られていたら結構力尽きると思うんだけど……」 「はっ、弱いな」 侮蔑の意味を込めて侮辱した千朱だったが、ははっと水渚は軽く笑うだけだった。 ――気分が悪い 「ってかさぁ、水渚は“女の子”なんだから、男のあんたに上に乗られていたら重いに決まっているじゃん」 「はぁああぁ!?」 栞の言葉に思わず大声で叫ぶ。うるさいなぁと栞は手遅れながらも片手で方耳をふさぐ。片方だけだったのは、拳銃を離さない為。勿論千朱から標準を。 「こいつ、女だったのか!? ありえねぇ、見えねぇ!!」 「それに対しては俺も否定はしないけれど、肯定もしないよ」 「おい、そこの二人、さりげなく僕を侮辱し続けるな」 女に見えないと連呼された水渚は目を細める。別に水渚は男装をしているわけではない。そんなつもりも毛頭ない。 「失礼だな!! ちょっと僕の処からどけてよ」 女だと気がついたからだろうか、半信半疑ながら千朱は水渚の上からどく。水渚は座る状態に起き上がり、千朱の手を掴んだ。 「おい? なんだよ」 千朱が怪訝そうな顔をするのも構わず、千朱の手を、自分の胸に押し当てた。 「はぁ!?」 突然のことに当然のことながら驚く千朱。 「僕が、女だってわかった?」 「あぁ、あぁ、わかったから、はなせや」 「初心なんだねぇ」 面白い水渚は笑うが、その様子が女らしくないんだよと、千朱は心の中で呟く。そして力は千朱の方がうえな為、離そうとしない水渚の手を後ろに引っ張り、千朱は自分の手を水渚から離す。 「あーあ、詰まんないの」 「詰まんないじゃねぇ!! 女なら、そんなことするんじゃねぇよ、もっとお淑やかにしてろ」 「そういうのって、男女差別、男尊女卑っていうんだよー」 「んなもん知るか!! てめぇは気にいらねぇ」 「あははっ、奇遇だね、僕もなんだか気味のこと嫌いだわ」 あはははっとお互いにお互いを見ながら笑う様は少々不気味だった。意気投合したのだか、なんだかと呆れ顔で栞は二人を見て、こっそりため息をつく。 すでに銃の標準は砂に合わせられ――栞の手はおろされていた。 [*前] | [次#] TOP |